第11話 夢見る少女と勝ち目のない裁判

 洞窟爆破事件から約一週間が経過しましたが、犯人は未だ名乗り出ていませんでした。


 ソフィアは爆破事件の翌日にアリアと共に、カルナに対して提訴を起こしていました。カイアス学園長は担当のスパイク先生に処分を任せると述べていましたが、提訴を起こしたことで裁判が行われることとなりました。


 ソフィアが提訴に踏み切った理由は、貴族の娘であるカルナが他の貴族に虚偽の申告をし、アリアを犯人に仕立て上げようとしている可能性があったからです。ソフィアは、そのための証拠を集め、アリアが無実であることを示そうとしています。


 提訴された側には直ちに連絡が行き、裁判の準備が進められました。そして、提訴から五日が経った今日、裁判が始まります。


 この国では、ハンターや強盗、殺人などの重大な犯罪は国に訴状を提出し、受理されると国王が裁判長を務めます。しかし、今回の事件は学園内で発生したものであり、ソフィアたちが学園調和監査局に訴えた結果、裁判長はビーリス公爵が担当することとなりました。裁判官としてカイアス学園長が選ばれました。


 原告席にはアリアとソフィアが座り、被告席にはカルナとその弁護人が座っています。カルナは腕を組み、余裕の表情を浮かべています。


 裁判長であるビーリスが口を開きます。


「これより、被告人カルナ・マテリアに対する殺人未遂事件の審理を開始します」


 ソフィアは立ち上がり、証拠書類を手に取りながら被告人カルナを鋭く見つめました。


「被告人は、課外授業の二日目に道具屋で購入した爆弾を洞窟に仕掛け、二人の生徒を殺害しようとした疑いがあります。私が現場から採取した指紋や爆弾の破片を調べたところ、被告人が購入した爆弾と同じ種類であることが判明しました。これらの証拠を写真とともに提出します」


 ソフィアは証拠を一つずつ法廷に提示し、裁判長たちに説明を続けました。


「一枚目の写真は事件前日に設置されたと思われる爆弾の写真です。二枚目の写真はご覧の通り、被告人とその仲間が爆弾を持って洞窟に向かっている様子が映っています。また、現場で見つかった爆弾の破片に採取された指紋も、被告人のものと一致しています」


 次に、被告人の弁護人が立ち上がり、冷静に反論を始めました。


「裁判長、この写真には疑問が残ります。被告人が購入したという証拠にはなりませんし、画像からは爆弾が設置された瞬間を確認することはできません。指紋についても、被告人のものではなく、捏造された可能性があると主張します」


 ソフィアは証人として、爆弾を販売していた店員を呼びました。店員を見たカルナは、組んでいた腕を下ろし、顔色が変わりました。


 ソフィアはそのまま商人に質問を始めました。


「証人、あなたは事件前日、被告人が複数の爆弾を購入したと証言しましたが、それは事実ですか?」


 証人のおばちゃんは少し考え込んでから答えました。


「はい、カルナさんが当店で爆弾を複数個購入されたことを覚えています」


「その時、特に変わった様子はありませんでしたか?」


「いえ、特に変わった様子はありませんでした」


 ソフィアは頷き、話を続けました。


「裁判長、この証言により、被告人が爆弾を購入した直接的な証拠が示されました。また、爆弾を設置した箇所が衝撃で崩れるように設計されていたことからも、その悪質さが認められます。したがって、被告人に対して禁固刑五年を求めます」


 最後に、裁判長が被告人に発言を求めました。


「被告人、何か言いたいことはありますか?」


 カルナは小さく頷き、震える声で答えました。


「私は……本当にやっていません。あの日、店で爆弾を購入したのは事実ですが、原告を傷つけるようなことはしていません」


 続いて、カルナの弁護人が発言しました。


「確かに被告人が爆弾を購入したことはありますが、それを洞窟に運び、爆発させた証拠は存在しません。爆発させた動機も不明であり、従って被告人の無実を訴えます」


 裁判長は一度目を閉じ、深く息を吐きました。そして、ゆっくりと口を開きました。


「両者、今回の発言に嘘偽りはありませんね?」


「無論です」

「はい……」


 自信満々なソフィアに対して、力弱いカルナの言葉でした。


「では、真実を見極めます。『イリュージョン・オブ・バタフライ』」


 ビーリスが背中から蝶の羽を出現させ、美しい羽を羽ばたかせ、その鱗粉をソフィアとカルナに振りかけました。


「では、『真実の鱗粉トゥルース・パウダー』原告側のソフィアさんに再度問います。あなたの発言に嘘偽りはありませんね?」


「ありません」


「分かりました。被告人カルナさんにも問います。あなたの発言に嘘偽りはありませんね?」


「は……う、い、は、い、いえ」


 カルナの言葉は震えており、その抵抗も虚しく終わりました。


「真実を述べてください」


「わ、私はメルジーナ様の成績が下がったのは、アリア・ヴァレンティンのせいだと思い、爆弾を使いました。怪我をさせてメルジーナ様と離れ離れにしてやろうと思っていました。一緒に行動していたのは誤算でした。殺意はありませんでしたが、反省はしていません」


「それが真実ですね。原告アリアさん、被告人に何か伝えたいことはありますか?」


 アリアは申し訳なさそうに言います。


「うーん、メルジーナちゃんの成績が下がったのが私のせいだったんだね。ごめんね」


 ビーリスは再びカルナに発言権を与えました。


「そうよ! 全部あんたのせいよ! 最悪だわ! 裁判なんか起こして! 私が負けるはずはなかったのに! この田舎娘が!」


 カルナは憤怒の表情で声を荒げます。


「やれやれ、貴族の娘ってのはどうやら自分の非を認めることができないようだね。自白していれば、こんな事態にはならなかったのに」


 ソフィアの言葉にカルナはさらに激昂しました。


「私は貴族の娘よ! あんたが余計なことをしなければ、この田舎娘はとっくに処刑されていたのよ! 証拠隠滅しようにも、ずっとあんたたちが職員室に蔓延って、私が入る隙がなかったの!」


「本性を現したね。君は最初から勝ち目のない裁判だったんだよ。職員室に居座っていたのは、君が入れないようにするためだよ。少しは考えないのか? 何故、複数犯なのに君だけが提訴されているのか。何故、被害者であるメルジーナがこの場にいないのか。何故、殺人未遂で提訴されたのか。君には一生答えられない問いだろうけどね」


「くそやろーーーーっ!!! ぶっ殺してやるぅー!!! この性悪女ーーー! 『ダイヤモンドカッター』!」


 カルナはダイヤモンドのように輝く物質を作り出し、それを刃の形に変えてソフィアに向けて放ちました。


「えいっ!」


 アリアの拳がカルナの技を粉々に砕きました。


 カルナの顔が真っ青になり、絶望の表情で「この……化け物……」と呟きました。


 カルナの弁護人は顔を下に向け、見て見ぬふりをしています。


 周りの人々は二人のやり取りを冷静に見守っていました。ビーリスは言い争いが終わったのを確認し、落ち着いた様子で話を続けます。


「この事件の判決は、後日下すことにします。被告人は判決が下るまでギルド警備隊の留置場に収容します。以上で本日の審理を終了します」


 木槌が再び打たれ、法廷内の緊張が解かれました。カルナは手錠をかけられ、無言で法廷を後にしました。

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