第4話 夢見る少女と戦闘訓練!


「んんっ? なにこれー! 楽しそう!」


 街をぶらぶらしていたアリアの目に映ったチラシには『戦闘基本訓練! 魔物編』と書かれていました。題名通り、魔物との戦闘の基本を教えてくれるようです。魔物との戦闘経験が少ない少女にとっては良い経験になるでしょう。


 アリアはチラシに記載されている時間と集合場所を記憶し、その時間まで他の依頼を受けました。


 開始時間の五分前、集合場所の西の正門前にアリアはやってきました。

 そこにはアリアと同じく、新米冒険者たちが集まっていました。


「戦闘訓練に参加される方ー! こちらへ五列でお並び下さーい!」


 お姉さんの一声で参加者が列になり並びます。


 アリアは三列目の一番後ろに並びました。


「では、今回の訓練の説明をさせていただきまーす!」


 そう言ったのは進行役のお姉さん。このイベントを仕切るのは五人の先輩冒険者とギルド会館の役員のお姉さんの計六人。


 説明された後、アリアは一つのグループの所へと向かいました。


「アリアだよっ! よろしくねっ!」

「よろしくねっ!」

「よろしくー」


 新米冒険者の男女二人と挨拶を交わしました。


 女の子の方はアリアと同じくらいの年齢で、男の子の方は二人より少し年上のように見えます。


 アリアが入ったグループは、魔法使いの先輩冒険者が先導者となり、魔法職の戦い方を教えてくれるようです。


「魔法職、指南役のノベルです。魔法職は基本、味方の後ろから魔法攻撃で、味方が戦いやすいようにサポートをしたりします。前衛職がいない場合は、魔物から距離を取って攻撃することを心がけてください」


「はーい!」

「「はい!」」


 ノベルは単調な話し方をする人で、白髪のシュリンプテールの若い女性。黒色のロリータワンピース姿で、白いカランコエの花のブローチを身につけており、短めの杖を持っています。

 ワンピースのフリフリには白色が使われており、可愛い感じの服装です。

 シルバーランクの冒険者でヒドゥンタウンの中では上位の冒険者になります。


「元気があっていいですね。では、私からもう一つ。魔物との戦闘はとても危険です。遠距離攻撃だから言って油断してはいけません。中には非常に素早く動いてくる魔物もいます。すぐに距離を詰められて……最悪。命を落とします」


『命を落とす』という言葉で周りの空気は重くなりました。ノベルは続けます。


「暗い空気にしてしまいましたね。すみません。何か質問がある方はいますか?」


「はい!」


 アリアは手を挙げました。


「はいどうぞ」


「ノベルさんはどんな魔法が使えるんですか?」

ノベルはアリアの質問に少し考え込んだ後、話し始めました。


「私の得意魔法は風と雷を融合した魔法。ボルトストームですね。パーティーを組んでいるときは風魔法で周りの魔物を吹き飛ばして、前衛のサポートをすることが多いです」


「かっこいいなー! 私もそんな魔法を使えるようになりたいなー!」


「練習すればきっと、あなたにもできますよ。1つの属性魔法を極めてアタッカーをやるのも良し、サポート魔法も組み合わせてサポーターになるのも良し。なりたい自分になれるよう努力するべきです」


「うん! 頑張る!」


「長くなりましたが、他になければ私たちも行きましょうか」


 アリアたち新米冒険者はノベルの後をついて行きました。


「この辺りは何故かは分からないけど、魔物が多く出現するようなんだ。調査中ではあるんだけど、少しでも魔物の数を減らせるといいね」

「うん! みんなが安心して過ごせるようにしないとね!」


 アリアの返事にノベルは少しだけ笑みを見せました。


「じゃあそこの茂みで隠れて待ってて。私は少し先を見てくるから」


 ノベルはそう言い残して先の道を歩いて行きました。

 

 アリアを含む新米冒険者の三人は言われた茂みに隠れて、小声で自己紹介を始めました。


 男の名前は「カナト」で、女の子の名前は「シラハ」だそうです。


「アリアちゃんの出身地はどこなの?」

「この辺りだよ!」


 メディとの約束の一つ、『ルーラル村出身と言わないこと』をアリアは守り、シラハの質問には適当な回答をしました。


「ごめんね。お待たせー」と、ノベルの声が茂みの外から聞こえ、三人は茂みからピョコっと頭だけを出しました。


「動物みたいで可愛いね。――魔物を呼び寄せたから。そこで見ててね」

「「「はい!」」」


 そこには数匹の「ガルルゴブリン」という魔物がいました。彼らは犬が威嚇するような声を発することからその名がついています。危険度一の比較的弱い魔物です。


 この世界では魔物に危険度が設定されており、それには一定の基準があります。


危険度一は武器さえあれば一般人でも倒せるレベルです。


危険度二は新米冒険者なら問題なく討伐できますが、一般人には難しいです。


危険度三は村に被害が出るレベル。新米冒険者も死亡することがあります。


危険度四は国が半壊するほどの被害が出ます。ベテラン冒険者でも難しいです。


危険度五は生態系や人々に悪影響を及ぼす災害や魔物を指します。


「ガルルッ。ガルルッ!」


 ガルルゴブリンが迫ってきました。ノベルは魔法を使い、風と雷で魔物を撃退しました。


「ふぅ。まあこんなもんかな」


 ノベルは汗を拭いています。魔法の威力が高いことがわかります。


「すごいですノベルさん! ものすごい威力だ」

「魔物が一瞬でいなくなっちゃったー!」


 カナトとシラハはその魔法に感動しています。


「じゃあみんなもやってみようか」


「えっ!? いきなりっすか!?」

「アリアちゃん、ドキドキするねっ!」

「うん! でもすごく楽しみ!」


 緊張感を漂わせるカナトを前に、二人の女の子はこの状況を楽しんでいるのが分かります。


「今の大音量に驚いて姿を見せる魔物もいるだろう。町や近くの村の被害を抑えるため討伐だ」


「了解です! よし! かかってこい!」


 カナトは戦闘態勢を取りました。そしてその近くの茂みからザザッと音が鳴ると同時に「ひぇぇっ!?」と変な声を出しながらノベルの後ろへと隠れました。


「驚くことはないよ。ただの小動物だよ」


 驚いた姿を見たシラハはお腹を抱えて笑いました。


「アハハーー! カナトーーっ! こんなんでビビってたら先が思いやられるよぉ!」


「はぁっ!? び、ビビってねぇしぃ!? そんなことよりシラハたちも警戒しろよ!」


 シラハは「はいはい」と軽く流しました。


 ノベルも周りを見渡して「おかしいなー」と呟きます。彼女からしたら、今の一撃で魔物が飛び出してくる予定だったようです。


「この辺に魔物はいないよー?」


 そう切り出したのはアリアでした。


「すごいね。魔力探知でも使えるのかい?」

「ううん。なんとなくだよ」


 ノベルの言葉を否定するアリア。


「なんとなくって……。そんなんで大丈夫なのか?」

「だって気配を感じないもん」


 アリアは魔物がたくさん住む森の中でずっと暮らしていました。だから、魔力探知をしなくても魔物の気配にはすぐに気づく。


 そもそもアリアは魔力探知は愚か、魔力不足で魔法も満足に使えません。今できることは魔力を高めたり一カ所に集中させることのみです。


 ジュニアスクールでは魔法の使い方は習わないので、教えてくれる人がいなかったのです。

 最近は少しずつだが何かを掴みかけている感覚は感じているようでした。


 そしてアリアは指を差しながら言葉を使います。


「それより、あっちから強い何かを感じるよ」

「……北西方面か。確かにあそこは……」


 ノベルが言いかけると、手紙を加えた一羽の鷲が肩に留まります。


「ん? これを私に? ありがとう。気をつけて帰るんだよ」


 甲高い鳴き声とともに鷲は飛び立ちました。


 あの鷲はギルドが飼っている伝言鷲。あの動物たちは魔族との争いが絶えない時代、空から魔族の場所を鳴いて合図したり目印をなどを付け、人間の勝利に大きく貢献しました。

 今でも大切にされている動物で、その感謝を忘れないようにギルド会館の旗のシンボルには鷲が描かれています。


 手紙を読むと、ノベルは申し訳なさそうに話した。


「ギルドから通達だ。これから北西の調査を開始するから現地集合だって。悪いけど今日は解散だ。続きはまた今度、プライベートの時間を取って教えるよ」


「何かあったんですか?」


「大丈夫ですよ! 私たちだって戦えます! 足手まといになるようでしたら、見捨ててもらって大丈夫です!」

 

 二人の言葉に、ノベルは先輩冒険者として重たい口を開きました。


「ここ最近、北西に向かった冒険者たちが次々と行方不明になっているんだ。調査にシルバーランク冒険者の三人が向かったんだけど、まだ戻ってきてないんだ。君たちはまだ若いし冒険者に成り立てだ。先はまだ長いんだから、危険な目に合う前に引き返す。それも新人冒険者としての務めだよ。だからついて来ないでね」


 カナトとシラハの二人はがっかりとした表情を浮かべ、お互いに視線を交わした。


 ノベルが念押しのためにもう一度圧をかけます。


「分かってくれるね?」


 二人は頷きながら「了解しました」と答え、アリアたちはヒドゥンタウンに案内され、ノベルと別れた。


「シラハ……分かってるな?」

「えぇ。もちろんよ」


「「来るなと言われたら行きたくなる! それが冒険者の本質だ!」」


「ねっ! アリアちゃん!」

「なっ! アリアさん!」


 二人は同じ方向を考えているみたいです。ノベルの忠告を無視して彼らもついていくつもりのようです。 


 二人の息の合った言葉に対して、アリアは首を傾げて言います。


「ノベルさんは来るなとは言ってなかったよ?」


「いやいや、そんな細かい事はいいんだよ! ほら、聞こえてくるだろ? 謎が俺たちを呼んでいる!」


「謎って誰かを呼ぶの?」


「いやいや、アリアちゃん! 分かってるくせにぃ! それに先輩の戦闘や仕事っぷりを見て学ぶのも私たち新米冒険者の仕事だよ!」


 アリアはもともと天然な部分があり、主にメディやジュニアスクールの仲間たちや先生としか交流がありませんでした。

 そのため、冗談や嫌味を言われても気づかず、他の人とのコミュニケーションのノリが理解できていないのです。


「そうなの? まあ仕事なら仕方ないかー」


「そうと決まれば早速レッツゴー!」


 シラハの合図に従って、三人は気づかれないようにノベルが向かった北西へ進みました。

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