第3話 夢見る少女と力比べ


「何の集まりだろ?」


 ギルド会館前の群衆がアリアの目に留まりました。


「なんだかよく分からないけど行ってみよう!」


 アリアは好奇心旺盛な性格を持ち、気になることにはすぐに行動してしまいます。初めての一人旅で、テンションが上がっているのも原因でしょう。


「おいおい! 誰か俺に勝てるやついねーのかぁ!?」


 そう叫ぶのは屈強な体をした男でした。


 今、この町では『英雄王感謝セール』というイベントが開催されています。


 世界を救った英雄王に感謝を忘れないように、一年に数回のペースで祝われています。

 

 この町以外でも行われることはありますが、この町のペースほどではありません。


 この男たちは腕相撲大会の参加者たちで、試合をして負け抜けで最後まで残った人が優勝となります。


 そして、その負けなしの男に挑もうとする少女がいました。


 そう、アリアです。


 アリアは笑顔を浮かべたまま、群衆を掻き分けて声を出しました。


「はーい! 私も参加します!」

その小さな女の子を見て周りはザワザワし始めました。


「お嬢ちゃん。悪いことは言わねぇ。辞めときな」

屈強な男がそう言うと、周りにいた若いお兄さんも心配の声をかけました。


「大丈夫だよ! 私、結構力に自信があるんだー!」

「まあいいだろう。挑まれた戦いは買わなきゃなぁ! 泣いても知らないぜ!」


「大丈夫! 負ける気しないから」


 アリアは相当な自信が感じられますね。


 アリアは踏み台を借り、二人は机に片手を握って組んで待機します。審判は二人の手の上に自分の手を置きました。


「レディーー! ファイトッ!」

「ふんっ!」


 勝負が始まると、屈強な男は力を込めてアリアの手を倒そうとしますが、アリアはギリギリのところで耐えました。


「おぉっ! つよーい!」


 これは厳しいか? 誰もがそう思ったのでしょうが、アリアの表情には余裕がありました。


「余裕だなお嬢ちゃん。だけどその表情はいつまでもつかな?」


「えいっ!」

「うおっ!?」


 周りは今の状況に驚きました。アリアが力を入れた瞬間、男の手の甲は地面に着いてしまったのです。

 審判はアリアの手を取り大きな声で宣言しました。

「しょ、勝者! チャレンジャーの少女!」

 

「「うぉぉぉお!!! スッゲェェェッ!」」


 群衆は一斉に拍手喝采しました。


「わーい! ありがとうございまーす!」

「お嬢ちゃん。何をどう鍛えたらそんなに強くなるんだ?」


 敗北した男はアリアに問いかけました。


「鍛えてる訳じゃないよ? ママのお手伝いで農業をやってるくらいだよ?」

「そうか。すごいな、農業」

「うん! 楽しいしオススメだよ!」


 敗北した男は「俺も農業始めようかな」と小さく呟くと、その場を後にしました。


「では、この少女に挑む者はいるかー!?」


 審判の男がそう言うと、会場は静まり返ります。

 

 アリアに挑む者は誰もいないようです。


「ねぇ。君。名前は?」

「アリアです!」


 審判はそのままカウントダウンを始めました。


 そして、カウントが0になるーー


「優勝は! アーーリアーーーーーッ!!!」


 審判の力強い声でアリアの名前が呼ばれ、それに続くように周りの群衆から、称賛の声が溢れ出しました。


「おめでとう!」

「小さいのにすごいなぁ!」


 アリアは手を振りながら嬉しそうでした。


「はいどうぞ。優勝商品の英雄王人形です」


 アリアはお礼を言いながら、その人形を受け取りました。


「では、午前の部はこれにて閉幕です! 午後の部の参加もお待ちしておりまーす!」


 審判の言葉で群衆は散り散りになりました。


 アリアは人形をバックに片付け、次の依頼を受けるためにギルド会館の掲示板へ向かいました。

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