第2話 夢見る少女と英雄王
「とおっ! ちゃーーーっく!」
歓喜のあまり、アリアはその場で手を大きく伸ばし、大声で叫びました。
冒険に出てから三日が経っていました。アリアは簡易テントで睡眠をとり、明るくなったら近くの川で体を洗う生活をしています。
小さい頃からメディが買い物に出掛ける際、一緒に野宿などの経験があり、火おこしや魔物の剥ぎ取りなどのアウトドア系は得意! さらに、家事や料理を手伝っていたので並程度なら一人でできます。
アリアは周りを見渡しながらもの懐かしさを感じながら歩き始めました。
「懐かしいなー。あははっ。でも何も変わってないや」
アリアが到着したヒドゥンタウンはよく、メディと一緒に、足を運んでいるので馴染みのある町。人口千人ほどの小さな町で、静かで優雅な雰囲気が漂っています。石畳の小道が入り組む中、古びた街並みが歴史の重みを感じさせます。
人々は静かに歩き、挨拶を交わす様子が和やかに広がっている。街角には、花が咲いたり、鳥たちが飛び跳ねたりして、穏やかな雰囲気が広がっています。
ヒドゥンタウンの住人たちは異国から来た冒険者にも好意的で、親しみを込めた笑顔で迎えてくれる暖かい町です。
「あ! 英雄王の像だ! 一礼!」
黄金に輝くその石像の人物の名は『ヒドゥン・ガレオスベルヘリット』です。
彼は七年前、この地を破滅に追い込んだ邪竜『デモキオン』を仲間たちと共に討伐しました。その偉業をたたえられて英雄王になりました。石像の照れ笑いの表情から、人情味あふれる人物に見えます。
この町は元々、シャマルティスタウンという名前でしたが、英雄王ヒドゥンの人気にあやかって変更されました。その目を引く石像は町のシンボルとなり、一目見ようと人が集まるようになり、かつて人気のなかったこの町もすっかり有名な観光地となっています。
石像に一礼を終えたアリアは、そのままギルド会館へと向かいました。
中に入るとデカデカとした案内看板がアリアを出迎えました。
看板にはこう書いてありました。
『いらっしゃいませ! お食事は左側へ、依頼は右側へ、冒険者登録の方はこのまま真っ直ぐにお進みください』
看板を見たアリアは、スキップで右側へ向かいました。
そして、黒髪ロングの受付の女性に声をかけます。
「すみません! 依頼を受けたいです!」
受付の女性は掲示板を指差しながら言いました。
「受けたい依頼はそちらにある掲示板から紙をお持ちください。パーティーを募集される場合は、依頼の紙をパーティー募集エリアに貼り付けて番号を持ってお待ち下さいね」
「分かりました! 説明ありがとうございます!」
早速アリアは掲示板へと向かいました。
パーティー募集エリアでは、透明なファイルに募集条件と依頼の用紙を入れ、ファイルに振られた番号の札を取って待つことで、参加者が集まります。
「んーっ。何かいいのないかなー? 私一人でもできそうなのは……」
アリアが読んでいるのは一人でもできる薬草の納品や『安らぎの花』の納品などのソロでできる依頼ばかりです。
メディと『魔物の討伐は戦闘訓練をしてから!』と約束をしていたのです。
そして、数分悩んだ結果、一枚の紙を受付のお姉さんの所へ持って行きました。
「これにします!」
「構いませんが、問題ありませんか? 結構ハードだと思いますが……」
「大丈夫です! 私、力には自信があるので! ムフーッ」
アリアは自信ありげに腕を曲げ、小さな力こぶを自慢するように見せつけました。
「わ、分かりました。無理はしないでくださいね?」
「はい! では行ってきまーす!」
「あー! ちょっとー! まだ続きが……!」
お姉さんの話を最後まで聞かずに張り切って外に出てしまいました。アリアが受けたのは引っ越しのお手伝いをしてほしいという依頼でした。
ギルドには魔物の討伐や道具の納品だけでなく、ペットの面倒を見てほしいや迷子の子を探してほしいなどの依頼もあります。そういうのはだいたいは住民からの依頼。
住民から受ける依頼の報酬は、ギルドが掲載料を差し引いた金額設定で、そのため少し物足りないかもしれません。一方、ギルドからの依頼は百%の報酬が支払われるため、通常は高い報酬が期待できます。
しかし、難易度は高いのが多く、パーティーを組むのが推薦されています。その場合の報酬はその人数で分け合うことになります。
ー数時間後ー
「お嬢ちゃんありがとうねぇ。助かったわぁ」
「どういたしまして!」
アリアは問題なく依頼を遂行していました。
「はいどうぞ」
「ありがとう! これは?」
依頼主のおばあさんから番号が書かれたメダルを受け取ります。
「あらあら。依頼を受けるのは初めてかい?」
「うん! 何も聞かずにきちゃった! てへっ!」
「これはね。依頼を完了したよっていう証だよ。これを受付の人に渡したら報酬を受け取れるからね」
お礼を言った後、手を大きく振っておばあちゃんと別れ、アリアはギルド会館へと向かうのでした。
「すみませーん! 依頼クリアしましたー!」
アリアは貰ったメダルを受付のお姉さんに渡します。
「依頼達成ありがとうございます。確かにお預かりしました! ではこちらが報酬となります」
「わぁぁっ! 初めてのお給料だぁ!」
報酬として十二クオンを受け取ったアリアは、この感覚を忘れないように、他にも雑草を抜く依頼や野菜の収穫などの依頼をこなしていきました。
ーその日の夜ー
人気ひとけのない森にアリアは野宿の準備をしていました。
「テントよし! 焚き火よし! 魔物の気配なし!」
寝る準備まで済ませた後は、一人で魔法の練習を始めるのだ。
今日は杖の先端に魔力を集める基本の練習をしています。
魔法を使うにはいくつかの方法があります。
一つ目は自分自身の魔力を使う方法で、これが一般的です。杖の先端に自分の魔力を集中させて放ったり、体の特定の部位に集中させることも可能です。
また、体全体に魔力を展開し、防御に使うこともできます。もちろん、魔法を使えば、その魔力量に応じて自分の魔力が減ります。
二つ目は魔道具を使って魔法を使う方法です。
魔力をサポートする貯蔵型の魔道具は、魔法を使用する際の魔力を肩代わりしてくれる優れものです。魔法のコントロールが苦手な人でも、自分の魔力を気にせずに練習ができるため、人気があります。
魔道具の中には必ず魔道石と呼ばれる綺麗な石が含まれています。魔道石は魔力を貯蓄できる珍しい性質を持っています。蓄えた魔力がなくなれば、魔力を供給する必要があります。魔力が少ない人は別の人に魔力を供給してもらうしかありません。
また、主婦の味方である生活系魔道具なども存在し、これらは基本的に日常生活を豊かにするために開発されています。少量の魔力だけで水をお湯に変えたり、吸引力でゴミを掃除できたりします。
「フンムムムゥ! こんな感じでどうだーー!?」
練習の甲斐あって、アリアは魔力が少ないだけでコントロールが上手です。アリアは魔法を放ってみますが、『ボフッ!』と鈍い音が鳴り、先端に集めた魔力は塵となり拡散しました。
「ムムムッ!? また失敗! 明日も頑張ろーっと!」
アリアはそう独り言をこぼし、数回の素振りを行った後、テントに戻り寝袋に入り就寝しました。
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