第9話 駅のホームの女
30代前半の頃。要するに十数年前のお話。
金曜の夜、いつも通り遅めの時間に駅のホームで電車を待っていた。すると、スーツ姿に眼鏡の不美人と目が合った。眼鏡っ子は好きだが、不美人にはあまり興味が無い。すると、その女性がクネクネとセクシーポーズを取りながら近寄ってくる。
目の前を通り過ぎると思ったら、目の前でピタリと足を止めた。
「あなた、恋人がいるの?」
「いえ、いませんけど」
「だったら私を誘いなさいよ、さっきから私があなたを誘ってることには気付いてたやろ?」
「あ、気付いていませんでした」
「嘘、気付いてたやろ?」
「すみません、気付いてました」
「明日は土曜日やから休みやろ?」
「はい、休みです」
「じゃあ、食事に行こうや」
「いやぁ、もう帰ろうかなぁと思ってたんですが。疲れてるし」
「食事に付き合いなさいよ、女に恥をかかせるつもり?」
ここで困った。“女性に恥をかかせてはいけない”僕はそうやって躾られたのだ。勿論、恋人や嫁がいれば断ってもいいと思うのだが、僕はフリーだった。仕方が無い、僕は一緒に食事に行くことにした。
「行きましょう」
「最初から、そう言えばええのに」
なんで、こんなに上から目線なのだろう? 僕はそこが引っかかったが、食事なんて1時間半くらいだ。そのくらいなら我慢出来ると判断した。
「あなたみたいな鈍い男、珍しいで」
「そうかなぁ」
「私が誘ってる素振りを見せたら、みんな口説いて来るで」
「そうなんですか」
「でも良かったなぁ、私みたいないい女と食事が出来て」
「はあ、良かったんですかね」
「何よ、文句あるの?」
食事の時間は想像以上にツライ時間だった。だが、始まりがあれば必ず終わりがある。食事が終わり、僕は解放された。
「ほな、これで帰ろうか?」
「うーん、今日はホテルに行きたい気分」
ずーん! 僕に重いものがのしかかってきた。
「いやぁ、今日はそういう気分じゃないかなぁ……あはははははは」
「あんた、女に恥をかかせるつもりなん?」
また来た。“女性に恥をかかせてはならない”僕が注意していることだ。そこを突かれると痛い。
結局、僕は断れなかった。
楽しくない夜を過ごした。
「あんた、ラッキーやなぁ、私と一晩一緒にいられて」
と言われたのをハッキリおぼえている。僕は怖かった。このままこの女性と付き合うことになったらどうしよう? 怖かった。幽霊よりも怖かった。
「あなたには悪いけど、私、本命の彼氏がいるから今日は一晩だけの遊びやで」
本当に良かった。
怖いようで全く怖くない話の連発! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます