第8話  田舎の小料理屋の女将さん

①若い頃、連休を利用した気ままな一人旅。田舎駅で降りて見知らぬ街を歩き、夕方になって小料理屋? に入った。


 40代くらいの、美人で色気のある女将さんがいた。和服が似合っていた。


「お兄さん、どこから来たの?」

「大阪です」

「大阪かぁ、私も若い頃は大阪にいたんやで。懐かしいなぁ」


 2人きりの時間、何故か話が盛り上がった。


「今夜、泊まるところはあるの?」

「まだ決めていません」

「ウチに泊まる? 泊まるなら店を閉めるけど」

「ほな、泊まります」


 素敵な一夜を過ごすことが出来た。


 そこで僕は、“田舎の女将さんに会えば、ドラマが生まれる”と勘違いしてしまった。



②気ままな一人旅、僕は田舎町の小料理屋へ。またいい思いが出来るかも? と思って期待でワクワクしていた。女将さんは魅力的だった。


 早い時間なので、まだ他に客はいない。或る程度、話が盛り上がったところで、僕は言おうとした。


「今夜、泊めてくれませんか?」


 しかし、階段から降りてきたいかついオッサンを見て言葉を飲み込んだ。


「休憩しろや、店の方は俺に任せてくれたらいいから」


 結婚しているのなら仕方が無い。危なかった。“泊めてほしい”という言葉、飲み込めて良かった。言葉に出してしまっていたら、このいかついオッサンにしばかれていただろう。そう思うと怖かった。まさに危機一髪だった。



③気ままな一人旅、また僕は田舎町の小料理屋へ。またいい思いが出来るかも? と思って期待でワクワクしていた。懲りないなぁと、自分でも思う。今度の女将さんも魅力的だった。


 早い時間、やっぱり他に客は無く、話が盛り上がったところで僕は言った。


「今日、ここに泊めてもらってもええかなぁ?」


 すると女将さんはキッと顔色が変わった。


「はあ? あんたアホか? ええわけないやろ。そういうことがしたいんやったら、そういう店に行ったらええやんか、そんなこと言うんやったら、もう帰ってや」

「失礼しました」


 僕は、女将さんに言われた通り、大きな街でそういう店に行った。



 一瞬にして雰囲気が変わった女将さんが怖かった。







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