第3話  ビジネスホテル

①若い頃は、3連休などを利用してよく一人旅に出た。各駅停車で、気の向くまま降りて知らない街を歩いたり、いい風景があるとスケッチしたりしていた。


 ところが或る日、終電を逃してしまった。終電までに大きな駅に行き、大きな駅前にはホテルが沢山あるのでそこで1泊するつもりだった。田舎の終電が予想より早かったのだが、終電をちゃんとチェックしていなかった自分の責任だ。


 田舎駅ながら、1件だけビジネスホテルがあった。だが、フロントで、


「満室です」


と言われた。


「こんな田舎駅でも満室になるんですか?」


思わず失礼なことを聞いてしまった。


「近くの会場(大きな駅の街)で或る大会があるので、今日は珍しく満室なんです」

「ロビーでもいいから泊めてくれませんか? 夏なので、野宿は蚊が多いから」

「そうですね……普段、使っていない部屋でもいいですか?」

「それでいいです! お願いします!」


 入ってみたら、普通の部屋だった。僕は風呂に入って着替えて寝た。


 夜中、目が覚めた。身体が動かない。金縛りだ。まあ、金縛りなんか時間が経てば解決できる、僕は気にせず天井を見上げていた。


「ん?」


 右の視界に何か……それは白装束の長い黒髪の女だった。右側の壁から出て来た。それは、僕の上を通り過ぎて反対側の壁に消えて行った。


 僕は、そこで気を失った。


 朝、起きた。すると、壁に長い黒髪が何本も貼り付いていた。


 チェックアウトの時、フロントで聞かれた。


「ゆっくり眠れましたか?」

「ここ、何かあるんですか(小声)?」

「しーっ! 料金は要りませんので他言無用でお願いします」



 宿泊代、得をした。







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