第44話 フミカの独白 その3

 冷淡に顔をそむけた。愛理とこのみもうつむいてしまった。


「生のジュンくんが欲しいの‥‥‥。ジュンくんのオチンチンにじかに愛撫されたいの。私の膣がジュンくんの体温をじかに感じたがってるの‥‥‥」


 サキはこの時、ジュンの指につままれていたコンドームをヒステリックに奪い取り、ベッドの脇に投げ捨ててしまった。


「サ、サキ‥‥‥」


 ジュンもつられて涙を流す。


「これがほしいの! これが!」


 サキは広げた股間でジュンににじり寄り、彼の勃起したものを手で大胆につかむと、その尖端を膣口に導き入れようとした。


「欲しいの、欲しいの! 直接入れて! ジュンくんの生のオチンチンが欲しいの!精子が欲しいの! どうしてそれがダメなの? ジュンくんの精子って私のモノでしょ?」

「でも、赤ちゃんができちゃったら‥‥‥」

「赤ちゃん、欲しいの! ジュンくんの赤ちゃんが欲しいの!」

「オレたちまだ16歳なんだ。赤ちゃんは持てない!」


 ジュンは自らの性欲を断ち切るように腰を引いた。サキの膣口から勃起の先端が離れた。だが、サキは両手で彼の勃起をグイッとつかみなおし、それ以上距離ができないようにした。サキの華奢な腕には似合わない筋肉の筋が浮かび上がる。


「初エッチで避妊具使うなんてイヤ! だって、はじめて結ばれるんだよ、私たち! 記念すべき初セックスなんだよ! 私のオマンコであなたのオチンチンを100パーセント感じたいの! 100パーセント受け入れたいの! だから、私、覚悟しているよ! 『初エッチ・イコール・妊娠』だって! 結婚できなくても、私、一生懸命育てるから! ジュンくんと私が生んだ命だから! ふたり分の命だから!」


 サキが力むと、膣口がピチュッと鳴って、ドロドロとした粘液が流れ出て来た。透明だった液がいまや白く濁っている。膣口から流れ出た液がシーツを濡らしている。ここで彼が腰を突き出せば、挿入に至るだろう。だが、どうしても躊躇してしまう彼がいる。


「どうしても欲しいのか?」


 ジュンがサキの頬を両手で包んで訊く。泣きじゃくりながらうなずくサキ。その黒目勝ちの美しい瞳は愛する男にじっと注がれている。


「よし‥‥‥。サキが望むのなら‥‥‥」

「ほんと?」

「サキの望みは、オレの望みだ……。さあ、オマエのマンコ、突き出せ!」


 ジュンが腰をゆっくり前へ送り出すと、亀頭が膣口にめり込んだ。


「はう!」


 処女の象徴である鮮やかなピンク色に、野獣性を帯びた赤紫の尖端が侵入を企てる。私もこのみも愛理も、ゴクリと唾を飲み込む。


 顎を突き上げ反り返るサキの背中にジュンは手を添え、ゆっくりゆっくりベッドに寝かす。ジュンの大きな躰がサキの小さくて華奢な裸体に覆いかぶさってゆく。


 ジュンの右腕がサキの首に回される。左腕はサキの片脚を抱え、彼女の股間が大きく開くようにしているから、下半身の様子が私たちにもよく見える。彼は腰をゆっくり動かす。いったん膣口から外れた亀頭が、粘液で潤ったサキのワレメに沿って行ったり来たりしている。


「さあ、いよいよかな……」


 愛理が桜の花びらが詰まった袋の口を開き、いつでも撒ける態勢を整える。


「じゃ、サキちゃん、本当にいいのね?」


 このみがポケットからスマホを取り出し、カメラのアイコンにタップする。


「うん、このみちゃん……、お願い……。うう……。私のジュンくんの一生の思い出だから……んん……、キレイに撮ってね」


「うん、まかせて。サキちゃんはカメラ気にしないで、ジュンくんだけを見つめていればいいからね」


「うん……」


 カメラを構えたこのみは、ファインダーに絡み合う二人の全体が入るように、ゆっくり後ずさる。


「……あはーん、ジュンくん……。いいよ、いつでも……。ん……、んん……。いいよ、入って来て……」


 サキがジュンのお尻をペンペンと二度たたき、合図する。


「そーれー! 枯れ木に花を咲かせましょー!」


 愛理が花びらのかたまりをつかんで天井に向け放り上げた。空中で花火のように弾けた花びらが舞う。ひらひらと、絡み合うふたりの上に散り落ちる。


「いくからね……。どうしても痛かったら、言うんだよ、いいね?」


 目の縁を真っ赤に染めたサキがうなずく。すると、


「ううっ……」


 サキの躰がピンッと跳ね、うめき声が漏れる。頬が震えている。ジュンの亀頭が入ったようだ。


 薄っすらとだらしなく開いていたくちびるが緊張し、挿入の深さに合わせるようにだんだんと開いてゆく。それと比例して眉が寄り、八の字を描いて上がってゆく。このみのカメラが少しずつ接近してゆく。


「ふっ!」


 さきのくちびるから突然呼気が漏れた。両手がジュンのお尻を離れ、シーツをつかんだ瞬間を、私はスマホの画面で確認する。カメラは咲の細い腕を上がり、ジュンの胸に押され歪んだ乳房を描き出し、細かく震える肩をとらえ、紅潮した顔をアップにする。


「痛いか?」


 ジュンの心配そうな問いに対しサキは「へいき!」首を振る。


「深く進むぞ」


 うん、とうなずくサキだが、声になっていない。震えるような浅い呼吸で次の侵入に備えている。目尻から涙が溢れ、こめかみを伝わっていく。私はサキがかわいそうになり、抱きつきたくなったが必死に我慢する。


 ジュンの大腿筋のかたちが浮き上がる。たくましい腰がゆっくり、ゆっくり沈んでゆく。クチュッと水音が漏れた。


「んんうっ!」


 女はおののくが、男には迷いもない。ただひたすら、ゆっくり、ゆっくり、重量戦車のように確実な足取りで襞のジャングルを押し分けてゆく。


 花びらが散る。ジュンの背中に無数の花びらが落ちる。


「突き当りみたいだ‥‥‥」


 ジュンがなおも腰を引いたり押したり、微調整をしながらささやく。


「は、入ったのね……? ジュンくんが……、私の大好きなジュンくんとひとつになれたのね? っあ‥‥‥、んん‥‥‥、ああ……」


 ジュンの微動に咲は敏感の反応する。膣襞の一枚一枚が神経そのものになったようだ。


「やっと、ひとつになったよ……。痛くないかい?」

「痛くなんかない、よ……」

「本当に平気?」


 ジュンは咲をいたわりながらも快感をどん欲に吸収している。その証拠に大腿筋が隆起したり下降したりを繰り返し、腰椎と仙骨が細かい動きを反復している。そのたびごとにジュンの唇から熱い息が漏れている。


「‥‥‥げ、限界まで広がっているみたい、私の膣‥‥‥。でも、だ、だいじょうぶ……。私の膣、いい子だから、限界まで広げられても、んん……、い、一生懸命……、がんばってる、みた、い……」


 サキは、ジュンに微笑みかけた。でも、それは明らかに苦痛を耐えている表情だ。それはジュンにもわかっていると思う。こんなにかわいい存在はほかにないとでも言うように、ジュンは最大限の愛おしさをこめて、彼女の髪の毛をかき上げてやっている。


 桜が散る。


 サキの目尻からまた涙がこぼれ落ちる。このみのカメラが接近する。きっと二人の対話の一部始終まで録音されている。


「泣いてる……」


 ジュンが涙を指ですくってやる。


「嬉しいの……。やっとひとつになれたなって……。ほんとうに……、う、嬉しくて……」


 ぼろぼろと、夥しい涙が彼女のこめかみを伝う。まるで真珠の粒が落ちるようだ。シーツがびっしょりだ。


「馬鹿だなあ……。初挿入で泣くかよ……。サキが泣くからさあ……。サ、サキが泣くからさあ……、オレも……、うっ……」


 このふたりは、ほんとうに馬鹿だと思った。せっせと粘膜と襞をこすり合わせて快感を極めたらいいと思うのに、結合状態で子供みたいにむせび泣いているのだから。


 このみがしゃがみこんでジュンの泣き顔を捕らえる。ジュンの方はカメラのことなどまったく気にしていない。サキと互いに相手の涙を拭きながらむせび泣いている。


 なんか、私も泣けてきた。そうか、初エッチってこんなにも感動的なのか。今日この瞬間、私には新しい世界が開けた。


 実は──、私も処女なのだ。29歳で処女。私の膣にはまだ誰も迎え入れたことがない。


「牧村のはみ出し者」などと不名誉な呼ばれ方をされているけど。だれにでも脚を開く女のように思われているけど、そんなの私の外見と蓮っ葉な行動が生んだ誤解だ!


 生徒たちは体育科の松伊垣や11HRの担任上原と男と女の仲なんだと根も葉もない噂を立てているけど、とんでもない。大学時代は何人かの男にキスまでは許したけど、躰までは誰にも許してない。


 今は処女を大切に取っておいてよかったと思っている。 今に見ていろよ! ジュンとサキより幸せな初エッチをして、みんなを見返してやるから!


 そう誓った瞬間、なぜか、ある男の顔が浮かんできた。


 ──陽介先輩。


 小さなコンビニが彼のたった一つの世界。バツイチでおまけにロリコン趣味だけど……。


 おっと、いけない、いけない! 私は髪の毛がぼさぼさになるまで首を振って彼の映像を追い払った。


「ジュ、ジュンくん、私ね……」


 サキは子猫が甘えるような声を出し、「っん!」と喉を鳴らせた。


「何だい?」

「恥ずかしいの……」

「え? どうして?」

「だって……、だ、だって……」

「え? 『だって』?」

「イっちゃいそうだから……、はうっ……んんっ……、イ、イ、イっちゃいそうだから……くくっ」


 サキの躰の奥で発生した痙攣が、まるでマグマのように、地上に噴出してきた。子宮の奥の痙攣がすごい勢いで拡散してきて、サキの小さな躰はガクガクガクとものすごい痙攣に襲われたのだった。


「いいんだよ、イっていいんだよ。イこう、イこう! 一緒に!」

「イ、イくよ! ジュンくん! イくよ、私! 来る、来る! ううぐわぁー!」

「よおおーし!」


 ジュンがピストン運動を開始した。長くて太い鉾でサキのマンコを滅多打ちにする。パンパンパンと肉の衝突する音が保健室に響き渡る。


 このみが下半身に接近してゆくが、ふたりは密着しているから結合部分は見えない。素早く移動した彼女は今度はふたりの顔の表情を激写する。


 私はふたりがクライマックスへ登って行くとき一つのことを心配していた。ジュンはめくら滅法に突きまくっているが、彼のあんな長いものの全長で直接劇打されたら、彼女の子宮がダメージを受けるのではないかと。


 そんな心配にもかかわらず、ふたりは同時にオルガズムに達した。


 野獣のような慟哭が保健室に響き渡った。声だけじゃない。空間がグワンと音を立てて激しく歪んだ。空気がまるで炭酸水のようにプチプチと弾けている。鮮やかな愛のオーラが四方に発散された。私はその濃厚な紫とピンクと緑の混濁したようなオーラに目をつぶされそうになり、堅く目を閉じた。あえぎ声はきっと職員室にも聞こえただろう。オーラが教員たちにも何らかの影響を及ぼしたに違いない。


「んんうっ‥‥‥」


 ふたりの絶叫に私のあえぎ声がかき消されたことを期待する。こんなすごい初エッチを見せられたら誰だって興奮する。私も‥‥‥イってしまったのだ。


 愛理もスカートの上から身体を押さえ、顔を真っ赤にし必死に息を殺しているが、女体の奥底から湧き上がる痙攣がくちびるから漏れてしまっている。


「んっ、んっ、んぐっ、んっ、んっ、くくっ‥‥‥」


 このみも手が震えて撮影がままならない。


「んんーっ、ふうーんっ‥‥‥」


 女のあえぎ声も様々だ。愛理は痙攣はテンポが速い。このみのそれはインターバルが長い。私のは‥‥‥、ズン・ズン・ズンと重いリズムを刻む感じだ。


 みんな愛の毒に当てられ、同時にイってしまった。


 もし、教員たちが押しかけてきたらどうしようかと思った。


 まあ、その時はその時だ。アタシはフミカ様! 牧村のはみ出し者! 体育教師だろうが東大出の秀才教師だろうが手玉に取って見せる! 美浜咲とジュンを守るために!


 




 




 

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