第40話 「指2本!」

「保健室でエッチするんなら、条件があるの!」


 フミカの甲高い声が11HRの壁にキンキン反射した。声が廊下に筒抜けになっていないかと、私たちは周囲に視線を巡らす。ドアと窓がしっかり締まっている。一応、安心。


「条件?」ジュンくんが思いっきり顔をしかめた。「なんだよ、それ?」


「童貞と処女でないこと!」


 フミカは肩幅に足を開き腕組みをした断固たる姿勢で、座っている私たちを見下ろしている。


「だって、処女って血が出るでしょ。童貞って精液漏らすじゃん? 血なんてついたりしたら、クリーニングしても落ちないのよ。精液がついていたりなんかしたら、学校としても業者さんに体裁が悪いでしょ。だから、シーツはこっそり買い替えないといけない。まあ、今までは私がうまく校長を誤魔化してきたから問題にはならなかったけどさあ‥‥‥」


 フミカは椅子に腰を下ろし、そっくり返るようにして胸を張った。「誤魔化す」とか「隠す」とか「煽る」とか「仕組む」ことにかけては、この人は自信家だ。


「『今まで』って‥‥‥、保健室をそういう目的で使わせてきたのかよ⁈」


 ジュンくんが呆れたとでも言うように目じりを下げる。桜坂で彼に初めて会った時のオジサン顔を髣髴ほうふつとさせる瞬間だった。


「まあ、なかったことはなかったけどね‥‥‥」


 フミカにしては歯切れは悪い。


「と、とにかくよ‥‥‥」トーンを上げ、教諭としての体勢を立て直す。「保健室をそういう目的で使うのは、私は反対はしません。むしろ‥‥‥、応援します!」


 愛理がパチンと指を鳴らした。


「そう来ると思ってた!」

「さすが、『牧村』のはみ出し者!」


 愛理とこのみちゃんの呼吸がしっかり合っている。やはりこのふたり、漫才コンビ組んだらいい!


「ただし‥‥‥」


 フミカの人差し指がピンと上を指し、4人が唾をのむ。


「シーツ代として、1人1000円ずつ徴収します!」


 緊張していたみんなの顔が、「はあ?」とアホ顔になった。高校生の「アホ顔」というのはほんとうにアホなのだ。小学生、中学生の比ではなく、ダントツに「アホ顔」なのだ。ジュンくんがすっと挙手する。


「1000円って、暴利じゃねえのかよ! 4人で4000円だぞ!」


 フミカの目がキラリと光った。この世のあらゆるものを馬鹿にする、冷たい視線だ。


「観覧料込みよ!」

「観覧料だと?」


 ジュンくんの裏声はすっぽ抜けたボールのようだと思った。


「そう、ジュンと美浜咲の初エッチをみんなで観覧する‥‥‥。ジュンとサキは払わなくていいよ。だって主演だから」


「しゅ、主演って‥‥‥」ジュンくんが顔を真っ赤にして立ち上がった。「オレたち俳優かよ。AVなんかと一緒にするなよ!一生に一度の初挿入なんだぞ! 愛する女の子との大切な思い出になるんだ! もっと尊重してほしいぜ!」


 机にこぶしが降ろされ、ゴーンと反響する。この音は廊下まで聞こえたに違いない。


「あはははは! ごめんごめん!」フミカはジュンくんの肩をポンポンと叩いた。「そういうつもりで言ったんじゃなくてさあ‥‥‥。要するに、このみと愛理が1000円ずつ出しなさいってこと。初挿入の『祝儀』と思えばいいでしょ?」


 私は噴き出した。初挿入に「祝儀」かあ‥‥‥。あ、でも、いいかも。初エッチはお祝い事なんだ。


「あ、そうそう、私も観覧させてもらうから、3人で3000円ね。メディカルシーツなんて一枚200円がいいとこよ。余ったお金はそっくり『祝儀』ね!」


「えー! フミカ先生も見るんですか⁈」


 今度は私から異議を唱える。「ダメです」と必死に唱えた。「ダメ、ダメ、ダメ!」髪を振り乱して唱えた。だって彼女が介入するととんでもないことになりそうだから。隙に乗じて初々しい膣にどんなものを初挿入されるかわかったもんじゃないから。ジュンくんとふたりで目隠しされ、さるぐつわ噛まされ、縛られるかもしれないから。女の子の人生をめちゃくちゃにされそうだから。


「なによ! 美浜咲! あんた、私に盾つく気? ジュンの愛を独占してるからっていい気になるんじゃないわよ!」


 憤怒に燃えたフミカは立ち上がって、机を激しく叩いた。


 一瞬ひるんだ私だったが、負けてはいられない。ジュンくんと私の一生の思い出を死守するために私も立ち上がる。


「ゼッタイ、ダメです!」


 私とフミカの視線がぶつかり火花を散らした。フミカの憎々しい顔が目の前20センチのところに迫って来る。私も負けてはいられない。神聖なる初挿入をフミカなんかに穢されてたまるもんか! 私はムー顔を突き出して対峙した。「平素の顔よりかわいい」と言われてしまう、全然怖くないムー顔だけど。いつ平手が飛んできてもいいように歯を食いしばり膝と足の指先に力を入れる。


 しかし引くべきは私の方だ。だって保健室はフミカの城。それを提供してもらおうと言うのだから。


 私は先に視線を落とした。


「とにかく‥‥‥」


 慌てたジュンくんが「まあまあそのへんのことは」と、二人の間に入ってくれた。


「シーツ代さえだしたら、童貞と処女にもベッド使わせてくれるんだろ、フミカ?」


「いいえ!」


 フミカは意地悪そうな笑みを浮かべて首を横に振った。ジュンくんも私も顔がこわばった。


「出血が多いと下の布団にも染みちゃうでしょ? だから‥‥‥」


 フミカは天井を見上げてしばらく「うーん」と何やら考えていた。そしてようやく結論が出る。


「指2本!」


 と、彼女は人差し指と中指をぴったりくっつけて顔の前に差し出した。じゃんけんのチョキではない。二本の指をしっかりくっつけて、ニョキニョキといやらしい動きを見せつける。


「はあ?」


 一同いっせいに首をかしげる。かしげ方はやはりこのみちゃんが一番かわいい。


「美浜咲のおまんこに指2本入る余裕があることが確認できたら、保健室のベッドを使うことを許可します!」


 一同、ぷっと噴き出す。みんなの視線が私の下半身に集中する。私は本能的に脚をキュッと閉じる。膣を濡らしていた粘液が瞬時に蒸発し乾いてしまった。


「1本にしようぜ」と、ジュンくんが指を1本立てる。

「ダメ! 2本!」と、フミカは2本立てる。

「1本なら入った。昨日。2本はまだなんだ‥‥‥」

「2本よ! ゆずれない!」


 フミカは2本指をくねくね動かし、しつこくジュンくんと私の目の前に差し出した。指印でも押したのだろうか。朱に染まった人差し指の指紋がよく見えた。

 

 フミカの指紋──。波が右から左へ流れていくような模様をしている。指紋というのはすべて渦を巻くものだと思い込んだいた私にはショックだった。紋をなす一本一本がこんなに太いのも初めてだ。なぜか私はフミカの指紋から爬虫類を連想した。爬虫類に指紋なんかあるはずはないのにだ。


「二本が最低条件。ジュンの長くて太い指で二本!」


 私の不安な視線がジュンくんの心配そうな視線と絡む。1本が入ったんだから、2本、行けそうな気もする。どうせ、今日中にはジュンくんの特大級が入って来るのだから。


「いま、ここで入れたらいいじゃない」フミカはいたずら小僧のようなあどけない笑顔を顔いっぱいに広げた。「美浜咲が1年間勉強したこの教室で2本入れる。きっと高校時代のいい思い出になるわ。それがクリアできたら、いよいよ保健室でラスボスと対決。つまり初挿入! 現代っ子なんだからゲーム感覚で愉しまなくちゃ。キャハハハ!」


 フミカは教室の中央に進み、学生用机をガタンゴトンと動かし、ふたつくっつけた。そして私とジュンくんに「ほらほら」と、来るようにと手招きした。


「アンタはここに腹ばいになって!」


 要するに16HRで私がジュンくんの机を抱きしめたようにしろということのようだ。


「きゃっ!」


 まごまごしていると背中を押され、腰が90度に折れた。気づくと机に腹ばいの姿勢になっていた。お尻がフミカの方につき出されているのが不安だ。すると案の定、


「きゃ! イヤイヤ! ひどい、フミカさん!」


 スカートがまくり上げられお尻が丸出しになった。アイリブランドのオープンクロッチショーツがみんなの目の前にさらされる。濡れたワレメが冷たい空気にひんやりする。


「おい! フミカ!」


 好きな女の子が辱めを受け、ジュンくんが気色ばんだ。


「大丈夫だから!」


 フミカの気合に押さえつけられ、ジュンくんはその場に立ちすくんだ。


 スカートごと背中をぎゅっと抑えられているから私は見ることができないけど、ジュンくんを含めた4人の視線が下半身に集中しているのがわかる。脚を閉じた。でもいくら閉じたところで人体の構造上、ワレメは丸見えだ。二本の太腿に挟まれてピンク色の果実が朝露に濡れて輝いているに違いない。


「ふっ‥‥‥」


 触られてもいないのに、なぜかワレメがこじ開けられるのを感じた。


 視線だった。4本の視線の矢が刃物となってワレメをこじ開けようとしている。四本の矢が膣口と肛門に押し入って来る。私はキュッとお尻の穴を絞る。


「かわいい……、サキちゃん……」


 真っ先に感動の声をあげたのはやはりこのみちゃんだ。


「サキのオマンコの色を引き立てるようにこの色にしたのヨ」


 愛理は私のはいているショーツについて言ったのだった。彼女の自信作のようだ。


「大陰唇がぷっくりと盛り上がって、ビラビラが小さいでしょ。だからオープンクロッチにしても清楚さが必要だと思ったのよ。ほら、クロッチの割れ目がちょうどクリトリスの真上から始まっているでしょ? これは、サキのクリの位置と大きさがわかっている私だからこそ作れるのよ。どう、ジュン? 気に入った?」


 ジュンくんは私のお尻を覗き込んで感動の熱い息をもらした。


「芸術的だよ、アイリ……。サキのオマンコのかわいさが本当に引き立って見えるよ。サンキュー、アイリ!」


 フミカが片手で私の背中を押しつけたまま、バッグからまた何かを取り出す。


「私も一応『保健の先生』なんて呼ばれているからさあ、生徒たちの衛生と健康管理に最善を尽くさせてもらいます」


 フミカはジュンくんに手を出すように言うと、そこにシュッシュッシュッとスプレーを吹きかけた。アルコールの匂いが鼻を突いた。


「さて、女の子の方は……」


 そう言ってフミカは、露出されたワレメに指を這わせた。


「ううっ……、ダメです! ジュンくん以外は!」


 私は手を後ろに回して侵入者を遮ろうとするが、お尻の穴までしか届かない。一番大事な穴は隠せない。


「フフフ……、だいじょうぶよ。心配しないの。私、あなたみたいなカワイイ子、大っ嫌いだけど、処女を穢すようなことはしないわ。女こそが女の尊厳を守ることができるのよ」


 とはいいながらも彼女の指先はいつまでも大陰唇のきわどいところやクリトリスの鞘のあたりを這い回っている。


「ああ……、うっ……」


 フミカになんか感じさせてもらいたくないけど、そんな思いをあざ笑うかのように快感の波紋が広がっていく。


 しばらくして、


「はい! 健康チェック完了!」


 パシン!と鋭い音と同時に、私は「ひっ!」と悲鳴を上げた。お尻を平手打ちされたのだ。


「フミカ先生、何するんですか⁈ 痛いです!」


 涙目で訴えた。


 さらにパシン!パシン!と2回激しく打擲ちょうちゃくされた。


 叩かれた振動が膣と子宮にも伝わってくる。皮膚はヒリヒリするけど、内部にはもぞもぞと快感が踊っている。打擲は私への侮辱に感じられたが、快美感を喜んでいる自分も否定できない。


 膣口がさらに潤ってくる感覚があった。


「乾燥症の膣ならローション塗ってあげようと思いました。でも、美浜咲……、あなたって本当に淫乱なのね。中もビチョビチョ。外まで垂れてきている。とっても健康な膣です」


 教諭らしいデス・マス調と卑猥な単語のごちゃまぜだ。


「この分なら指2本、余裕でいけそうね。さあ、ジュン……」


 フミカはジュンくんに立ち位置を譲った。


 さあ、いよいよだ。愛する彼の指が入ってくるのよ! それも2本も!


 指2本さえクリアできれば、その次は保健室での本番。早く欲しい。ジュンくんのが……、ジュンくんのが欲しい……。







 

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