第37話 初エッチ、抱負を一言
花びらを集めるためとは言いながらも、ずいぶんと早起きをしたものだ。4つのザルいっぱいに集まったところで時間を見たら、まだ10時。お日様はまだ真上に昇り切れずにいる。
早起きせずにはいられなかったのだ。一日がもったいなかったから。だって、私はジュンくんの女になったのだ。たとえ指一本だけでも、私の躰の中に初めて入った男の子はジュンくん。そしてジュンくんも指を入れた初めての女の子が私。ああ、なんて幸せなんだろう。今日もきっとハッピーな1日に違いない。
燦燦と日光の降り注ぐ教室。春休み中にワックスが塗られた床はピカピカ。ザルからこぼれた花びらが数枚、ひらりと舞って床に落ちる。
「で、どうなの、サキ? 処女最後の日の感想は?」
ザルから洗濯用のメッシュ袋に花びらを移しながら愛理が私の顔をのぞき込む。
「『処女最後の日』か‥‥‥。少女時代とお別れすることには何ら感慨は湧かないけど‥‥‥。ただ、ジュンくんと特別な関係になれることが嬉しいの。指一本だけでもこんなに幸せなのに、彼自身が入ってきたら幸せで気絶しちゃうかも‥‥‥」
言いながら、私は無意識に躰をもじもじとよじってしまう。
「それ言うならね、『幸せで気絶』じゃなくて、『オルガズムで』でしょ?」
最近思ったことをズバズバ言うようになったこのみちゃんだ。1年前は内気で、クラスメイトに声かけることもままならなかった彼女が、今は見違えるように積極的になった。「サキちゃんのおかげだよ」と言ってくれるのも嬉しい。
「こ、このみちゃん‥‥‥、ジュンくんの前で‥‥‥。恥ずかしいったら」
私が顔を赤くしていると、ジュンくんがそっと肩に手をおいてくれ、温かい視線で包んでくれる。
「オレも幸せだよ。今日キミの中に完全挿入できたら、俺も幸せすぎて気絶しちゃうかもな」
「だから、『オルガズムで気絶』だって!」
今度は愛理だ。ふたりとも調子に乗りすぎだ。今日はみんな浮かれている。春のせい? 桜のせい? ううん、違う。初エッチのせい!
16HRの教室。
桜坂で花びらを集めた後、2階の一番奥にあるこの教室に忍んで来たのだった。足音を立てないよう上履きも脱いで。
私とこのみちゃんの11HRじゃ昇降口から近すぎる。春休み中でも先生方は出勤しているから、見つかったらすぐ追い出されそうだと判断してのことだった。
ここに入って来る時、感無量だった。だってジュンくんが1年間勉強してきた教室だから。考えてみれば、堂々とこの教室に入って来るのは初めてのことだ。学期中はこの教室の前まで来ると、誰かが気をきかせてジュンくんを廊下に呼び出してくれたものだ。私は教室に入らなくても、彼と会うことができたのだった。でも、彼の教室で誰の目も気にすることなく彼と仲良くお話しすることができたらどれだけ素敵だろう。──いつもそう思っていた。
窓側最後列の席を4人で囲む。窓を開けると、待ってました、とばかりにそよ風が吹き込み、教室に春の香りをばらまいて廊下へ吹き抜けていく。床に落ちていた花びらが舞いあがる。
「ジュンくん、一年間この机使ったんだね」
彼の席がここにあることは知っていた。廊下から見えるから。でも、ここまで入ってきたことがない。もちろん座ったこともない。
机に指を這わせてみる。業者さんがすべての机と椅子を磨いていった後だったけど、ジュンくんの汗や赤が染みこんでいるような気がした。愛しくて愛しくてしょうがない。
「サ、サキちゃんったら……、何やってんの?」
このみちゃんがこけしのように首をかしげている。
「一度こうしてみたかったの」
腰を折ってジュンくんの机を抱きしめたのだった。彼が触ったものなら私も触りたい。彼のために頑張ってきた机なら、ありがとうと言ってあげたい。だからこうやって、私のおっぱいをくっつけてあげる。
「パンツ見えそうだよー、サキー……」
愛理がうしろで意地悪そうな鼻声で警告する。
「ヤバッ!」
慌てて上体を起こし、スカートがまくれてないかお尻に手を当てる。実は愛理に頼んでスカートの丈を10センチほど短くしてもらったばかりだったのだ。ジュンくんと目が合うが、彼はゆっくり首を横に振る。
そう、今日のショーツは見られたらまずい。今まで穿いたアイリ・ブランド・ショーツの中で一番でセクシーな代物だから。売り場では絶対買わない。いや、買えない。高校生がこんなショーツを穿くなんて店員さんに笑われたくないから。
「座ってみなよ」
ジュンくんが椅子を引いてくれた。高さが調節できる机。私の机よりずいぶんと高く調整されている。もちろん椅子も高い。座って足がつかなかったらどうしよう。笑われちゃうかも‥‥‥。
そろそろと腰を下ろす。やっぱり高い。かろうじてつま先が床についている。ジュンくんがクスッと笑い頭を撫でてくれる。
「もう‥‥‥、子ども扱いなんだからぁ!」
上目づかいで脇に立った彼を見上げる。
「だって、こんなに小さいんだもん、サキって。オレのサキって‥‥‥」
なでなでが続く。
彼に子ども扱いされることが多くなったように思う。男の子特有の心理かも。好きになった女の子を手取り足取りかわいがってあげたいという。
躰のサイズがこんなに違うのが不思議だ。背の高い彼と低い私。彼の躰と私の躰。──躰の大きさのことを思うとドキドキして顔が紅潮してくる。感じること、思うこと、考えることのすべてが今日の初エッチにつながっていく。大きな裸体で覆われたら体の小さな私はどうなってしまうのだろう。まして入って来られたりしたら‥‥‥。
──ああ、温かい。
そんなはずはないのに、椅子がぬくぬくする。そんなはずはないのに、大好きな男子のお尻の温かみがじわじわと私のお尻に伝わってくる。お尻とお尻───。エッチモードがどんどん上昇してゆく。
「‥‥‥うっ」
いけない。感じちゃいそう‥‥‥。くちびるに指の甲を当てる。コクっとつばを飲み込む。
彼の机と隣の机をくっつけ、椅子を寄せ合い4人で囲む。
「さあ、私たち、セックスを語ろうよ」
愛理が仕切る。身を乗り出し嬉々とした表情で提案する。
「うん、セックス、セックスぅー!」
拍手で応じたのはこのみちゃんだ。床についてない両足をパタパタ振っている。背の高い男子の椅子に座ってしまった模様だ。
「さあ、サキも言ってごらんよ、セックス、セックスって」
そう言って、ジュンくんがニヤニヤしながら私の肩に腕を回す。
「セ、セ、セック‥‥‥」
愛理とこのみちゃんに負けるものかと、言葉を口に出そうとするが、ジュンくんが隣にいると、なぜかそれができない。あきれたジュンくんにむぎゅっとアヒル口を掴まれ、「サキは恥ずかしがり屋だな」と上下に揺すられる。首にばねが入っているように揺れる。
「あはは! サキの顔!」
「サキ、かっわいいー!」
愛理とこのみちゃんが甲高い声を上げてからかう。この二人、息が合っている。お笑いコンビを組んだらどうだろう。すらっと背の高い愛理とおチビさんのこのみちゃん。ウケる。うん、これは絶対にウケる!
「じゃあ、美浜咲さんに、今日の初エッチにかける抱負を聞かせてもらいましょうー!」
愛理にエアーマイクを向けられ戸惑う私。
「ほ、抱負だなんて、そんな‥‥‥」
いつもはクラスの中心にいて明るい私も、話がセックスになると途端に羞恥心が募る。初エッチが控えているという緊張感も手伝っていると思う。
額越しに隣のジュンくんを見上げたら、助け船を出してくれた。
「抱負なら……、じゃ、まず、オレからね」
ジュンくんは私の頭を撫でながら始めた。彼は私の髪の毛をぐちゃぐちゃにするのが大好きだ。
「初挿入だけが初エッチじゃない。今日朝起床した時からもう初エッチは始まってるんだ」
ほほう、と愛理とこのみちゃんが身を乗り出す。オーバーにうなずくいて先を促す。
「まず、今朝起きぬけにサキに電話した。そして、今ビンビンに勃起していることを伝えた」
おー!と愛理がくちびるを丸くする。
うっそー!とこのみちゃんが目をくりくりさせる。
「そしたら、サキも、『濡れてるのー』って言ったんだ」
恥ずかしい! 二人だけの秘密なのに何でそんなことばらしちゃうの? 私は胸の前で両手を握り締める。目をしっかり、鼻にしわが寄るくらい強く強く閉じる。
「つまり、その時点からオレとサキのセックスは始まってる。そして‥‥‥」
そして? なに? と愛理が机に肘を立て両手に顎を置いて乗り出す。
なになに? ワクワク、ドキドキ……、とこのみちゃんが高鳴る胸に両手をあてる。
「桜の花びらを集めている時もみんなに見えない所にサキを抱き寄せてさあ……」
なになに? キス? (by 愛理)
おっぱいモミモミ? まさか、もう挿入しちゃったの? (by このみ)
「集めた花びらをサキのブラの中に入れてやったんだ。だから彼女のセーラー服の下は花吹雪だ!」
見たい、見たい。サキ制服脱いで見せてよ、花吹雪!(by 愛理)
脱がしちゃえー!(by このみ)
「あ、まだ脱がさないで‥‥‥」
机越しに腕を伸ばして私のセーラー服に手を掛けようとするこのみちゃんから、ジュンくんは身を挺して私を守ってくれた。
「だから、オレの抱負は、挿入の瞬間は、すでにもう始まっている長い長いセックスのクライマックスにしたいってこと。最高に盛り上げたいってこと! 以上です!」と、頭を下げた。
パチパチパチとみんなで拍手。私も半泣きの顔で、指の先でチョコチョコと拍手。
さすが、ジュン。サキを犯すことへの情熱には素晴らしいものがあるね!(by 愛理)
ジュンくんの流儀? 男の美学ね。サキもきっと幸せだわ‥‥‥。(by このみ)
「さあ、じゃ、次はサキの抱負ね。サキさんサキさん、今日のセックスはどんなセックスにしたいですか?」
今度はジュンくんがマイクを向けてきた。
私も思いっきりエッチなことを言おうと決意した。だって、愛理もこのみちゃんも最高にいやらしいことを期待しているみたいだから。親友の期待を裏切るのはよくないから。
「実は、今日、アイリが作ってくれた下着の中で一番いやらしいのをつけてます」
おー!と、自尊心にパンパンに膨れ上がった愛理。
いいなー!と、羨ましがるこのみちゃん。さっそくスカートの中をのぞこうと机の下に身を屈めてくる。慌てて両脚を閉じる私。
「クロッチがオープンになっていて、あまり下着の役割は果たしてないんだけど、ジュンくんとの初エッチを想像したりすると私すぐ濡れちゃうから‥‥‥、オープンになっていることがちょうどよくて‥‥‥、だって、風通しがいいから乾かしてくれるでしょ?」
嬉しいわ! 私のパンツ穿いてくれて! (by 愛理)
想像しただけで濡れちゃうなんて、サキちゃん、いやらしい!(by このみ)
「だから、何が言いたいのかというと‥‥‥」
何が言いたいのよ⁈ もったいぶらせないでよ! (by 愛理)
はっきり言いなさいよ、この淫乱オンナ! (by このみ)
「私の躰ではもうセックスモードになってるから、ジュンくんにいつでも入ってきてもらいたいの」ジュンくんを見上げて「いつでも、いつでも、入って来て! だ、だから、──24時間臨戦態勢! ──これが私の抱負です!」
よく言った! (by 愛理)
それでこそ、美浜咲! ミス湖南! ミス淫乱! (by このみ)
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