第29話 ジュンくんがほしいの!

 その時だった。真っ白のぼやけた意識の中で、忽然とジュンくんの笑顔が浮かび上がった。快感の高まりとともにジュンくんがやって来る。オルガズムの確かな予感と共にジュンくんが走って来る。


「ジュンくん、イきそう……。私、イきそう! 来て、来て、ジュンくん!」


 クチャクチャに揉まれたおっぱいがジュンくんを待っている。ぐらぐら煮立つ子宮がジュンくんを欲している。口をパクパク引き攣らせている膣がジュンくんの乱入を期待している。


 お母さまの指が膣口に侵入してきた。入り口から2,3センチの所。そこに細かい振動を送ってくれる。しかし、私が求めているのはそんな軟弱なものじゃない。そんな細い指じゃない。そんな微かな振動じゃない。私が欲しいのは……、私を満たしてほしいのは……。


「ジュンくん、ジュンくん……。ジュンくんが欲しい、ジュンくんが……」


 うめき声が聞こえる。なんて淫らな声なの。自分の声だなんて信じられない。でも私は呻き続ける。


「ほしいよ‥‥、ジュンくんが、ジュンくんが欲しい……」


 快感の洪水の中で欲望が頂点に達すると、突如として私の意識に大きな、まっ黒な塔が立ち上がった。太くて長くて立派な塔だった。え? これって……ディルドじゃない? このみちゃんのおまんこをズタズタに裂いた、阿久津先輩の、あのディルドだ。


 ち、ちがうの! そんな汚いものはイヤ! 私が欲しいのは、私が満たされたいのは、ジュンくんの……、ジュンくんの……。

 

「ジュンが欲しいのね?」


 天上から女神さまの声が降り注ぐ。私はうなずく。肺が焼き切れそうなほどの呼吸を手なずけながら、首の骨が折れそうなほど激しくうなずく。ジュンくんが欲しいから、ジュンくんに満たされたいから‥‥。


「ジュンくんが欲しいの。んんんんあぁああ! ジュンくんが……、ふぅああああ! ジュンくん! ジュンくん!」


 私はとうとう泣き出してしまった。オルガズムが、いや、ジュンくんがすぐそこまで来ているのに、彼は見えない。どうして? どうして彼はここにいないの? 


「ジュンに入って来てほしいのね?」


 女神さまが囁く。私はただ涙で答える。だって、彼に満たされたい思いは言葉を越えているから。言葉なんかで表現できないから。


 熱い涙がこめかみを伝う。私は泣きじゃくっている。目くるめく快感に喘ぎながら私は嗚咽している。私はとうとう狂ってしまったのだ。ただ、がむしゃらにジュンくんが入って来てくれることだけを望んでいる。


「サキ……」


 ジュンくんの声だ!


「サキ、オレここに‥‥・」


 アイマスクがはずされた。


「ジュンくん!」


 夢じゃないだろうか。私は目くるめく快感に狂って、とうとう幻影を見るまでに至ってしまったのか。


「サキ……。大好きだ! 愛してる!」


 愛理の手とは違う、大きくて、広くて、重量感があって、熱い手が私の乳房を覆った。乳首がなぶられるごとに、ジュンくんへの愛が高まる。


「ジュンくん、ジュンくん……、ジュンくんが欲しいよ……」


 私はうわごとを繰り返しながら、潤んだ目で彼を見上げる。彼の優しい目に吸い込まれそうだ。優しく撫でられた。優しく揉まれた。深くほじくるように指で押し込められた。乳房の奥深いところにある心に触れられた。圧倒的な快感と圧倒的な安心感。


「んんん……、ジュンくん、ジュンくん……はあ、はあ、うううん…‥」


 幻影じゃない。ジュンくんは私の胸を揉んでくれている。ジュンくんの愛が乳首から染み込んでくる。ジュンくんが私を求める熱い熱い思いが、私の躰の奥まで伝わって来る。


「さあ、サキさん、何が欲しいの? 欲しいものを探しなさい」


 お母さまの優しい声と同時に、ナイフのように鋭い快感が全身を駆け抜けた。


「んあっ!」


 クリトリスを剥かれたのだ。剥いたのは誰? お母さま? それともジュンくん?


「さあ! サキさん! あなたの欲しいものは何!」


 お母さまの指が小陰唇の縁をなぞっている。下から上へ、そしてその合わせ目、クリトリスへ。


「いい! とってもいいです! お母さま! お母さま!」


 痺れるような快感に私はまた腰を振ってしまう。お母さまの目の前に恥ずかしい部分を突き出してしまう。その瞬間一回目の絶頂が来た。


「ふわぁあああー!」


 ワレメからお母さまに向けて液体が噴き出された。なに?今噴き出た水はなに?


 めくるめく快感に全面侵攻された私は、呼吸するのが精いっぱいだった。手も足も麻痺して動かない。ただ、下に敷かれたバスタオルを握りしめるのみ。


 しかし、ジュンくんの裸体のまん中にそびえ立つ、浅黒いを私は掴みたいのだった。掴んで私の中に入れたかった。私の中の空白を埋めたかった。それは私の欠落を埋めるにはあまりにも長すぎ、あまりにも太すぎたが、でも、が私の求めるものにほかならなかった。


「さあ、サキさん、何が欲しいの。欲しいものを命がけで求めなさい!」


「ふんんぁああああ!」


 お母さまのクリトリスマッサージはほとんど殺人的と言ってよかった。私は再度のオルガズムに導かれた。ばたんばたん音を立てて腰が激しく痙攣した。呼吸が止まりそうになって目の玉が完全にひっくり返った。それでもお母さまは許してくれない。充血して弾けそうになっているそれを高速でなぶって来るのだった。


 またオルガズムが迫ってくる。もうそこまで来ている。でもそれはジュンくんによって与えられるべきものだった。私は再度手を伸ばす。上半身をジュンくんの方にひねって両手を伸ばす。目の前わずか20センチのところに逞しく屹立しているそれを私は全身全霊で求めているのだった。


「ジュンくん……。ジュンくんが欲しいよ……」


 私は泣きじゃくりながらうわごとのように繰り返す。


「ジュンくん……、ジュンくーん。欲しいよー」


 欲しくて欲しくて嗚咽しているのに、たかが20センチなのに手がいうことをきかない。ああ、今度のオルガズムはジュンくんによって! ジュンくんに与えられたい!


「サキ、頑張って。サキ、頑張るんだ」


 ジュンくんが腰を突き出す。勃起したものを私の顔の前に寄せる。私は手を伸ばす。もう少し、もう少し……。


 掴んだ!


 熱く脈打つその長くて太いモノを私は確かに掴んだ。阿久津先輩のディルドにも決して負けない逞しい肉体を私は掴んだのだ。それはジュンくんの中心。ジュンくんの一番熱いモノ。


 両手でつかんだら、黒っぽい表皮がズリッと剥けた。中から赤紫色に充血した極太芯が現われた。これこそジュンくんの正直な、決してウソつくことも装うこともできないむき出しの欲望であることを確信した。


 男の欲望は灼熱だった。私の手は火傷しそうだった。熱いだけじゃない。生きている。ドクンドクンと激しい血流が手のひらを仲介して私に流れ込んで来る。彼の血が、熱い熱い血が、まっ赤な血が、私の躰を巡る。乳首も膣襞も子宮も彼の熱い血の流入でパンパンに膨れ上がる。


 ジュンくんの勃起を頬擦りした。頬に擦り付けるたびにジュンくんのモノは弾けそうなほど膨らみ、グワングワンと根元からなびいた。黒い血管がさらなる欲望を流し込んでたくましくそそり立つ! これこそ男の理想と言わんばかりに反り返る!


「ああ、ジュンくん、嬉しい。はあっ! これなの。んんあっ! 欲しいんです。これを、これを下さい……」


 ヒクヒク泣きじゃくりながら私は哀訴する。潤んだ瞳で彼を見上げ、可哀想な私を救って欲しいと懇願する。私は血の池に落ちた罪人。あなたはお釈迦様。救って欲しい。切ない思いが胸の中で沸騰している。これで‥‥、この逞しいもので私の欠落を埋めてほしい! 満たしてほしい!


 お母さまと愛理がマッサージを中止し、ベッドの脇から退く。それでも私の躰の痙攣は続いていた。ジュンくんの息がかかるだけでも子宮が震え、トクッ、トクツと膣が水音を立てながら痙攣していた。


 もうこれ以上耐えられなかった。だから……、


「うっ! サ、サキ!」


 彼のモノを口に押し込んだ。それは本来くわえるものではないことは知っている。長さから言っても、太さから言っても、とても私の小さな口に入るような代物でないことは知っている。でも、咥えるということ以外に方法を思い浮かべられなかったのだ。


 もっと奥まで欲しい。喉の奥の方へ。私の中心にまで届くように。


 私は彼の腰に抱きついた。左右の大腿筋が逞しい。私は彼の屹立したものが喉の奥に突き刺さるように、男のお尻に抱きついて、抱きかかえて、爪が食い込むほど力いっぱい引き寄せる。だって、ジュンくんは私のものだから。独占したいから。


 すでに鈴口から大量の粘液を噴き出していたそれは、ニュルリと喉の奥まで滑って来た。顎の骨がミシミシ音を立てた。関節がはずれたかもしれない。


「サキ! んぐっ! そんなことしたらオレ……」


 ジュンくんの声が裏返っている。私の肩を押し、屹立を抜こうとしている。イヤ! 放さない! 心臓のように脈打つこれが好き! 腕に渾身の力を注入し、彼の腰に抱きつく。強く強く抱く。爪が彼の臀部に食い込み血を滲ませる。


 飲み込みたい! ジュンくんの、ジュンくんの灼熱の欲望を飲み込みたい。彼のお尻をさらに強く抱き、喉の奥に誘い込む。


 苦しい……。酸素が入ってこない……。死ぬかも……。


「サキちゃん! ダメ!」


 お母さまと愛理が叫んでいる。


「吐き出しなさい! ダメ! あなた、窒息死しちゃう!」

「サキ! 狂ってる! 正気に戻って!」

「ジュン! 絶対いま射精しちゃだめよ! 気管支に入ったら死んじゃうわ!」

「サキ! 吐きだすのよ! サキ!」


 イヤだ! 窒息してもいい! ジュンくんの、ジュンくんのモノは私のモノ! 絶対離さない! どうして私からジュンくんを引き離そうとするの⁈


 最後の手段だ。私は歯を立てる。彼の逞しいものを噛み切ってやる! 永遠に私のモノにしてやる。


 そう決意したとたん、後頭部に痺れが走った。ジュンくんがはじいたチェロの弦がブオーンと鳴っているよう。目の前から色が薄らいでいく。ああ、酸欠なんだ。痺れが躰に広がっていく。手が冷えてゆく。力が入らない。


 口を満たしていたものがすごい勢いで引き抜かれた。前歯が抜かれるかと思った。ほぼ同時に、私の顔に何かが噴射された。すごく熱くてドロドロしたものが。遠くで、そう、宇宙の彼方ほどの遠くで、ジュンくんの絶叫が聞こえた。


 ああ、私は空っぽ。落ちてゆく、落ちてゆく……。


 私は……、空っぽの私はどうなっちゃうの……。


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