第24話 車中キッスで感じちゃって

 ジュンくんのお父さま、薫さんは、貞利博士とミツエさんを車で送って行った。私はお母さまの運転する車で、愛理さんと一緒にお宅にお邪魔することになった。


 園長先生は私と牧村夫妻を信じ、特別に外泊を許可してくださった。中学生以上は外泊する時服装のチェックを受ける。極端に短いスカートや下着が透けるような服装は許されない。高校生には高校生らしい質素な服装が求められる。 


 タイトなニットには、はりの効果で最近ボリュームを増した乳房がくっきり浮き出ていたけど、グレーのプリーツスカートが制服っぽく見えたためだろうか、短めにもかかわらず許可してくれた。でも、もしスカートの中までチェックを受けていたら絶対引っかかっていただろうな。だって、このみちゃんにもらったエッチな下着だから。紐を引っ張るだけで、木の葉のようにハラリと落ちてしまう代物だから。


 後部座席に私とジュンくん。助手席に愛理さん。


 私とジュンくんは異様に固くなっていた。だって、私は舞台上でプロポーズされたばかりで、二人の関係性に変化が生じたすぐ後だったし、心の中は今まで味わったことのない喜びであふれかえりそうだったから。それに今のこの位置関係。後部座席はジュンくんと二人きり。助手席の愛理さんはことあるごとに振り向いて私たちの様子をうかがっているから。


「へえー、手も繋がないんだ?」


 なかなかスキンシップをしない私たちにしびれを切らせた愛理さんが、運転席と助手席の間から身を乗り出してくる。女にしてはかなり粘り気のある視線で私のくちびるやスカートから露出した膝を撫でまわしてくる。


「るせーなー、前向いてろよ、愛理ぃー」


 ジュンくんは前に手を伸ばし愛理さんの頬をくいっとつまんだり、髪の毛をぐちゃぐちゃ掻き回したりする。そんな抵抗をすればするほど、愛理さんの視線はますます粘着性を帯び露骨になってくる。二人のじゃれ合いは子供みたいだけど、私の隣にいるこの男性は、私のフィアンセ。薄暗い車内でも、街の灯火が照らされて輪郭の浮きあがった彼の顔を私はさっきからぼうっと見つめている。


「だって、5カ月ぶりなんでしょ、二人きりになれるの」


「二人きりじゃないだろ。母さんもいるし、オマエもいる」


 お母様と愛理さんが視線を合わせ、ニヤニヤしている。


「キスぐらいしなよ」


 愛理さんがすらっとした腕を伸ばし、ジュンくんの膝をつつく。


「したいよ、そりゃあ……。サキ、今日は一段とかわいいし。でも、オマエがしょっちゅう後ろ振り向くからできないだろ?」


 きっといつもこんな感じでふざけ合ってるんだろうな。ジュンくんと愛理さんの親密さにちょっとだけ焼きもちを焼いてしまう。


「『愛情はみんなの前で惜しみなく表現せよ』──それが、牧村家の家訓だよねえー、ジュンー?」


 首を傾げ語尾を長く伸ばす愛理さんに彼は戸惑っている。視線があちこちさまよっているのが薄暗い車中でもわかる。本当にそんな家訓があるのだろうか。そういえばミツエさんもセックスに対してはおおらかだ。「賛美すべきもの」「褒め称えるもの」と言っていたではないか。


「今どきの女子高生を5カ月も放っておいて、普通の女の子なら逃げちゃうよ。サキが貞淑だから我慢してくれたんじゃない?」


 「サキ」と呼びつけにされた。イヤじゃない。それどころか、嬉しい。自分も牧村家の一員になれたような気がする。愛理さんのこともこれからは「アイリ」と呼ぼう。


「5か月分、ここでまとめてキスしておきなよ。じゃないと家に入れてあげないから」

「言っとくけど、愛理の家じゃなくてオレの家なんだよなあ。オマエにそんなこと言われる筋合いはない」


 愛理と論戦を戦わせながらも、ジュンくんは私への侵略にも抜け目がなかった。彼の片腕は私の肩に回され、指の先がさわっさわっと胸のふくらみに触れている。シャイで奥手そうに見えるが、じつはけっこうプレイボーイなのかも。


「ほら、ジュン、こうやってさあ……」


 愛理は後部座席に上半身を丸ごと乗り出し、ジュンくんのもう一方の手を取ると、私の露出した膝に置いた。


「あっ……」


 彼の体温を感じてくちびるから声が漏れてしまった。慌てて口元に手を当てる。愛理に意味ありげなねっとりとした視線で見つめられ胸の奥がこそばゆい。


 彼の手はしばらくそこに留まっていた。愛理がじーっと見ている。ジュンくんの体温と愛理の視線で、そこは沸騰するように熱くなってくる。肩に回された手の先が私の胸をさわさわと触って来る。ふくらみ具合を、輪郭を確かめられている。ああ、じれったい。コートの上からはほとんど何も感じられない。


 脱がしてくれないかな……。


 そして膝に置かれた手が少しずつ太腿を上がってくる。そこはコートの分厚い布がない。ストッキングも穿いてないから彼の指を直接感じる。


「‥‥‥っく」


 どうしよう。お母さまが運転していらっしゃるのに、こんなことするのはいけないことだわ。


 そう囁く理性を溶かすようにして躰の奥が徐々に熱くなってくる。指の這い上がってくるのにぴくぴくと反応してしまう。


「んん‥‥‥」


 お腹の奥の方で何かが弾けようとしている。


「ほら、ジュン……。サキが感じて来てる。さあ、キスしてあげて」


 愛理のささやきと同時に


「ふんん‥‥‥」


 唇が塞がれた。乱暴な塞がれ方だった。


 シートに押し付けられ、大きな躰がかぶさって来る。のけぞるほど強い圧力でくちびるが押し付けられる。


「夏帆さん、ほら、始まったよ!」


 トーンを落とした愛理の声が聞こえる。やはり「夏帆さん」と呼んだ。


「どれどれ‥‥‥」


 夏帆さんの、いや、ジュンくんのお母さまの声。


 ちょうど赤信号になり、サイドブレーキを引いたところだった。お母さまが後部座席に振り向く気配がする。どうしよう。お母さまと愛理に観察されながらキスしている私たち。 


「ジュンもサキも学校じゃモテモテなんですよ。そんな二人が愛し合う姿って本当にステキですね」

「そうね‥‥‥」


 お母様の声も感動に濡れている。


 キスの経験がない私にはわからないけど、たぶんジュンくんのキスはとても下手なんだと思う。むやみにくちびるを押し付けてくるからちょっと痛い。歯と歯が何度か当たった。そして、吸引と押し込みの反覆。百歩譲ってもロマンチックなどと言える代物ではなかった。


 彼の躰の中にはきっと熱い塊があるんだと思う。それを発散したくてがむしゃらに私に押し込んで来る。熱さはあってもテクニックがない。でも、そんな彼が私はますます好きになるのだった。きっと誰ともキスしたことがないんだ。そうだよね、ジュンくん? 私が初めてなんだよね? だからこんなに下手なんだ。キスが下手なジュンくんが大好き。私もキス下手だよ。だって……、したことないし。ジュンくんのためにとっておいたんだから。これからキスたくさんして上手になろうよ。毎日毎日キスしようよ。


 ジュンくんはきっと童貞。私は処女。初めてどうし。ステキ! 肩から丸く撫で下ろされた腕の先端が、彼のスラックスに当たった。その時たしかに彼の熱くて固いものに触れた。男のからだがピクッと震えた。私はそれが何だかすぐわかった。脚の付け根からベルトのちょっと下まで荒々しく立ち上がっている。初めて触ってしまったモノなのに、私はそれが何なのか本能で知っていた。握るにはちょうど良い大きさだったけど、時期尚早だと感じ、 欲望にはやる手を彼の首にまわした。


 信号が青に変わる。お母さまのため息とともに車が走り出す。視界の隅で街の灯が後ろに滑っていく。


 胸を包まれ揉み上げられた時、子宮がプルプルと震えた。目を開けると、視界の端に愛理の目があった。きっと気づいている。キスだけで私が統制不可能なほど性感が高まっていることを。


 視線を落とすと、胸元でスクールコートのトグルがはずされていく。一つはずされ、二つはずされ……。彼の手は震えていて頼りなかったけど、躰が少しずつ開かれてゆくのを感じる。男子に脱がされるのなんて初めてだから、どうしていいかわからない。このまま彼に任せておけばいいのだろうか。いや、ちょっとは抵抗したほうが女の子のはにかみが伝わっていいかも。


「あ……、ジュンくん……。は、恥ずかしいよ」


 目を開くとルームミラーが目に入った。四角く切り取られたお母様の目が優しく微笑んでいらっしゃる。愛理も運転席と助手席の間から身を乗りださんばかりにして、私たちを見守っている。


「恥ずかしがってたらダメだよー、サキぃー」


 愛理が媚びるような声をあげる。


「男と女の愛情表現ほど美しいものはないのよ。美しいものは見せなくちゃ。私も見たいし‥‥‥。フフフ……」


 ジュンくんの手がコートの下、脇腹のあたりに滑り込んできた。ちょうどそこは「おじいさん先生」のお蔭で、くびれが目立ってきたところだ。


「ああ……、ふっ、ダメ……」


 男の子にコートを脱がされたことに、そして手が侵入してきたことに私はすごく興奮している。私の躰はそれがずっと前から望んでいたことを知っている。望みがかなえられて躰が喜んでいる。顔が熱い。それ以上に熱いのが彼の体温だ。触れられたところから熱の輪が、いや、快感の波紋が広がっていく。まるで池に石を落としたときの水紋ように。お母様と愛理さんにも聞こえそうなほど心臓が騒いでいる。


「いい感じよ、サキ」


 愛理が開き気味になった脚の間を見つめている。迂闊にもスカートがまくれかかっていたのだ。対向車線のライトに照らされて、きっと私のショーツが見えているだろう。慌てて脚を閉じ手でスカートを下ろす。しかし、気づくとまた開き加減になっている。愛理の視線も相変わらずそこを射抜いている。いくら彼のキスが不器用とは言え、私の理性は徐々にフニャフニャになっていくのだった。


 唇をふさがれた状態で、ニットの上を彼の手が這う。胸が揉まれたわけじゃないのに肌のあちこちに快感が芽生え、はじけ、広がっていく。お腹の奥の方からぷつぷつと泡が上がって来る。そのたびに私はピクン、ピクンと躰が跳ねてしまう。呼吸が激しくなり、声が混ざる。


「あ……、あ‥‥‥」


 耳たぶを噛まれる。


「‥‥‥っ!」


 うなじを吸われる。


「ふぅあ‥‥‥」


 愛撫の中心が移動してゆくごとに、躰が揺らぐ。理性がとろける。新しい性感帯がポンッ、ポンッと音がするように花開いてゆく。


「サキ……、大好きだ……」

「ジュ、ジュンくん‥‥‥」


 耳元での囁き声が鼓膜をピリピリと震わせ、細かい波動が躰に拡散してゆく。彼の声にこんなに体が反応してしまうなんて、信じられない。鼓膜さえも性感帯だなんて‥‥‥。


 車が止まる。赤信号なのだろう。お母さまが後部座席に振り向く。


 あ、いけない。スカートがまくれてる。お母さまに見られただろうか、レースの紐ショーツを。ショッキングピンクだから薄暗い車内でも怪しい光を発しているかもしれない。


 ジュンくんの首から離した手でスカートの裾を降ろす。そのとたん、ジュンくんの手に膝からお尻にかけてサワーっと撫でられ、スカートがまたまくれ上がってしまう。


 あっ、膣が震えた。くっついていた襞がトクンと音を立て筒状になったような感覚だ。熱いものがゆっくり膣を降りてくる感覚がある。同時にモゾモゾするような快感で喘いでしまう。


「んんーん、ああっ……」


 お母さまも愛理も聞かれてしまった。どうしよう、どうしよう……。


「5月んときは完全に不感症だったのにね。クリめくったり、つついたりしたら『痛い、痛い』って悲鳴上げて。サキの肉体、だいぶ開発されてきたみたいよ。全身が性感帯って感じじゃないの……」


 ドキッとした。


 湧きあがった快感が一気に冷めた。氷のような感情に体が硬くなる。


 五月と言えば、保健室で手足を縛られ、目隠しをされ、犯されかかったときではないか。あれは男ではなく間違いなく女だった。髪の長い女。


 えっ! ま、まさか、愛理が⁈








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