第6話 王子さまさがし再開

 翌朝、腰の痛みはだいぶ和らいでいる。若いんだから一晩寝たら治るわよと職員のお姉さんが言ってくれたのがその通りになった。だが、桜坂を登る時こころもち前かがみになったら、背中に凝った部分があって、そこから腰に針のような痛みが降りて来た。


 これはまずいことになった。バイトで医者に通える時間なんてないし。


「おはよう、サキ!」

「おはよう、このみちゃん!」


 机にカバンを置いたら、窓辺のこのみちゃんがすくっと立ち上がり、今日も探しに行くんでしょ、と訊いてきた。


「今日は体育館なんだけど。えーと、バレーボール部から」


 とたんにこのみちゃんの顔が輝きだした。羞恥心と喜びが交錯したような女の子のこの表情、よく知っている。


 ──このみちゃん、好きな男子がバレー部にいるんだね?


 そう訊きたかった。でも、女の子の心はデリケートだから、言葉には出さなかった。


 誰だろう。クラスの鈴木くん、それとも江上くん? 二人はいつも女子バレー部の野中さんと本庄さんたちと一緒にいる。つきあっているということではなさそうだ。伝統的にバレー部は美男美女が多い。真偽のほどは疑わしいが、バレー部の男子にはバレー部の女子というお約束事もあると聞いている。野中さんも本庄さんも背が高くて、小顔で、垢ぬけていて、性格もさっぱりしている。果たして背の低さでいえば私とどっこいどっこいのこのみちゃんが、引っ込み思案のこのみちゃんが、決して美人とは言えないこのみちゃんが、どこまで食い込んでいけるだろうか。


 腰をいたわりながら階段を下りてゆく。体育館への渡り廊下を渡るとき、グラウンドに源次郎先輩の姿が小さく見えた。ゴールキーパーをやっている。ゴールポストぎりぎりを狙ってくるボールにジャンプしてしがみつく。その姿があまりにもカッコよくて、私は手に持ったザルを落としそうになってしまった。朝子姉さんが好きになる理由がわかるような気がした。


 目の前に体育館の鉄の扉が見える。年季の入って塗りがはがれかかっている扉。半分開いている。きっと、あそこから中がのぞける。だが……、


 圧倒された。


 何にかって?


 女子たちにだ。


 男子バレー部の見学に来ている女子の多さとレベルの高さに私は完全に圧倒され打ちのめされたのだ。10人はゆうに超えている。みなスラリと高身長だ。何?このモデル並みのプロポーションは? 校則の規定を超過し髪が長い。スカートの丈が短い。脚がキレイ!


 背の低い私とこのみちゃんが隙間から割り込んで体育館の中をのぞこうとすると、たちまち凹凸豊かなボディーたちにはさまれ窒息しそうになる。バストで顔を押さえつけられ、ヒップで全身が跳ね返される。


「きゃっ!」


 二人してコンクリートに尻もちをついてしまった。


 雨に濡れた犬がからだをブルブル振って水切りするように、私もふらふらする頭を振る。見上げると、上級生たちがこっちを見て固まっている。その視線を追うと──、このみちゃんのスカートの中!


 うしろに両手をつき膝を広げているから、短いスカートが捲れ上がり、見事にゴカイチーンになっている。私からは太腿にさえぎられかろうじて見えない。今日はいったいどんなショーツを穿いているのだろう。上級生らの驚愕と嫉妬と軽蔑の混じったような目つきからすると、セクシーさの半端でないことが伺える。


「チビのくせしてそんなの穿いて……」

「そうよ、どうせカレシもいないくせにパンツだけはつっぱってるんだから……」

「そんなパンツであのイケメンたちが引っ掛かると思ってんの?」

「一年生のくせにでしゃばるんじゃないの!」


 上級生の非難と叱責を一身に受けているこのみちゃんがかわいそう。しかし……、いったいどんなショーツを……。


 気になる私はコンクリートにぶつけた腰をさすりながら、這うようにして身を前に乗りだす。視線がもう少しで彼女の奥に達しようとするとき、


「もう!」


 膝と膝がぶつかって音が出るほど勢いよく膝が閉じられてしまった。上級生たちを見上げる彼女の目が尖っていた。教室では生まれたての子犬のように無垢だった瞳が敵意にギラギラ燃え盛っている。それは上下関係への反抗というよりは、というさがから不可避的に溢れ出るどす黒い感情とでも言えようか。


 体育館の中からキュッキュッとシューズのきしむ音、ブボーンとボールが激しく床に打ち付けられる音、それに男たちの雄叫びやホイッスルの音が漏れ聞こえてくる。それらは私の胸の鼓動に共鳴し、血管を通じて全身に拡散してゆく。私の躰が体育館になったような、いや宇宙になったように感じがする。このみちゃんも心臓に手をあて、私と同じ体験をしているのだろう。荒々しい呼吸はいったい誰を思ってのことなのだろうか。彼女の心を独占している男子は誰?


 ふと後ろを振り返る。


「サキも来たの? あ、宮田さんも?」

「サキは誰がお目当て?」


 同級生だった。その周りに立っている女子も上履きの色で全員一年生とわかる。そう、上級生に邪魔され体育館を覗き見ることもままならないでいるのだ。なんてかわいそうな小犬たち。同情心で胸が熱くなる。


 いつの間にか体育館が静かになった。


「ほらほら、アンタたちどきなさいよ。道開けて。ほら、そこ。ぼさってしてるんじゃないの!」


 芸能人並みに鼻筋が通り、セクシー女優並みに丸い胸を張りだした3年生が声を荒げる。


 女子たちが宮廷につかえる侍女のように左右によけ、体育館の出入り口から渡り廊下にかけて花道を作り出す。さっきより人数が増えて、ざっと二十人くらい。憧れの男子にわたそうと、きれいな封筒を携えている女子もいる。作って来たお弁当を胸に抱いている女子もいる。この切ない女心を男子たちは知っているのだろうか。


 私とこのみちゃんは花道を外れ、校舎に入ったところの薄暗い廊下に身を隠す。石の裏で獲物をねらうのサソリのように。


 始業のチャイムが鳴る。


 この時間に教室に居なければ遅刻としてカウントされるのが原則だ。まあそれは担任により甘くなったりするのだけど。11HR(ホームルーム)の担任、上原先生は出席チェックには厳格なほうだ。今日は間違いなく遅刻が一つつく。


 出てきた。


 早く着替えを終えた上級生たちが鉄の扉を開けてすごい勢いで出てくる。肩にかけたスポーツバッグが扉に当たって大きな音を立てる。肩で風を切って歩くと言うのはこのことか。堂々としている。歩いているのにそのスピードは走っているようだ。本当に彼らが去った後には風が巻き起こることを知った。夏服のワイシャツの上からでもうかがい知れる逞しい肉体。お目当て男子を見つけ、女子たちが抱きつく。すでにつき合っているカップルもあれば、ただの憧れでからだをすり寄せて来る女子もいる。


 顔を真っ赤にして手紙を渡す女子。無関心そうにそれをひったくる男子。「これ、召し上がってください」と弁当箱を差し出す女子。好みの女子の肩を抱き教室に向かう男子。抱き合ってこれ見よがしにキスを交わすカップル。──ここはまさに乙女の憧れとどす黒い性欲が交差する修羅場だった。


 私のすぐ鼻の先を天然パーマの栗毛の男子が通り過ぎる。目鼻立ちは明らかに西洋の血を引いている。この人知っている。全校集会のとき舞台上で表彰された人だ。なんて言ったっけ。そうそう、阿久津先輩……。確かお母さんが北欧出身の有名なアスリートだったはずだ。


 彼は女子生徒の腰に手を回し、校舎に入ってすぐの階段をグングン登って行く。下から見上げると、腰が逞しく脚が長い。汗に濡れたワイシャツが背中の肌色を透かしている。


 その後ろ姿に、あたかも神さまにでも祈るように手を合わせている女子がいる。


「このみちゃん……」


 私が肩にそっと手を乗せると彼女は振り向いた。その目は真っ赤に充血し、くちびるが震えている。顔がくれないに染まったかと思うとすぐに臆したように真っ青になる。熱があるのかと疑ったほどだ。


「三年生だったんだね、このみちゃんの……」


 私は彼女の両肩に手を置き、膝を折って彼女のうるんだ眼を覗き込む。


「苦しいの……。私、苦しいの……。阿久津先輩……」


 憧れの先輩の名前を呼びながら、まるで毒薬に焼かれるように、胸を掻きむしっている。そうか……。恋焦がれる女は本当に胸を掻きむしるのだ。


「こ、このみ……」


 片思いに胸焦がす乙女がかわいそうで、胸にギュッと抱いてあげる。真っ白いセーラー服がこのみちゃんの涙で濡れた。


 三年生が去りしばらくすると、二年生たちが前を過ぎ去っていく。親衛隊に囲まれながらホクホク顔で歩く部員。女子に手渡された手紙を無造作にワイシャツのポケットに突っ込む部員。きれいに包まれた弁当箱に顔を寄せ臭いを嗅いでいる部員。「オマエに決めた」と、適当に選んだ女の子をお姫さま抱っこして花道を闊歩する者もいる。モテる男子は皆、生気にみなぎっている。


 残っている女子はみな一年生だ。さっきより人数が減っている。いなくなった女子は二年生か三年生が目当てだったのだろう。


 束の間の静寂。生暖かい風が恋に燃える女子たちの頬を冷やして過ぎ去っていく。


 五分ほどして片付けに時間のかかったらしい一年生が出てくる。上履きの色を確かめる。確かに一年生だ。五分刈りの名残が歴々としている一年生。上級生より疲れて見えるのは気のせいだろうか。


「このみちゃん、かぶって!」


 私とこのみちゃんは一斉にザルをかぶる。周りの女子の棘のある視線。嘲弄ちょうろうするような忍び笑い。あからさまに侮蔑の態度を見せつける女子もいる。


「おい、見ろよ。コイツらオレたちの気を引こうとしてザルかぶってやがる」


 二人のバレー部員がニヤニヤいやらしい笑みを浮かべ私たちに近寄って来た。一人にザルを奪われそうになったが、私は「むっ」と頭を押さえ必死にそれを守った。


「お! 見ろよこの子。11HRのあの子じゃね?」

「ああ、美浜咲! なんだよ、キミたちもバレー部に興味あるの?」

「大歓迎なんだけど、オレたち」


 ザルをいじっていた手が降りて来て、私とこのみちゃんの鼻を指でつついたり、耳たぶをつまんだり、頬を撫でまわしたりしてくる。気持ち悪い。


「私たちの目的なあなたたちじゃなくて、このザル!」私は自分とこのみちゃんの頭に手を乗せる。「これを貸してくれた男子に興味あるの!」


 目に力を入れ、顎を突き出し、毅然として言い放った。


「おいおい、美浜咲さんってこんなに気が強かったんだね。知らなかったよ。でも俺たち、気の強い女の子……大好きだよなあ」

「おう! 大好きだよなあ……」


 二人の男子がニヤニヤしながらうなずきあう。一人の手が伸びてきて、私の肩に置かれる。ねっとりとした体温を感じ、「いや」と躰をひねる。


「バレー部にはいねーよ。女の子にザルを貸すような女々しいヤツ……」


 そこへ、


「女々しくて悪かったなあ!」


 懐かしい声が耳朶じだに響く。ああ、どんなにこの声が聞きたかったことか。見上げると、彼らの後ろにいた! ザルの王子。桜坂の王子。私が会いたかった人。あたかもあの時からずっと私のそばにいたとでも言うように、どこまでも自然に、泰然とそこにたたずんでいるのだった。


 二人の不良部員はすごすごと退散した。


「そのザル、返しに来たんだろ? サンキューな!」


 彼は広い手で私とこのみちゃんの頭からザルをはがす。


「はい、約束通り、返しに来ました。あのう……!」


 用は済んだとでも言うように階段を登って行こうとする彼を私は声を限りにして引き止めた。


「お名前教えてください。そしてクラスも!」

「俺の? いいよ、名前なんか。関係ないだろ美浜咲さんには」


 王子は私の名前を知っていた。


 このみちゃんは私たちのやり取りに興味津々だ。これからの展開がどうなるのだろうかとワクワクしているのが私にも伝わって来る。


「関係あるんです! だって……」

 

 話は終わってないのに、彼はぐんぐん階段を登っていく。脚が長い。ピンと背の伸びた後ろ姿が凛々しい。二つ重ねたザルを頭にかぶった彼はもう踊り場まで行ってしまった。追わなくちゃ! 会いたかった彼を追わなくちゃ!


「お願いです。待って! ちょっと!」

 

 あわてて階段を登りやっと踊り場までたどりついたとき、突然腰に激痛が走った。右足がピーンと引きつって膝が曲がらない。


「きゃっ!」


 足が上がり切れず、段に引っ掛かって無様な恰好で転んでしまった。肘が階段の角のあたりグキッと変な音がした。後ろから私を支えようとしたこのみちゃんの手がとっさにセーラー服のフロントを掴む。その瞬間、フロントホックが弾き飛び、前がはだけてしまった。


「いやーん」


 見下ろすとキャミソールの下のピンク色のブラが透けている。慌てて前身頃を合わせる。


「おい、大丈夫か⁈」


 二段飛ばしの速足で二階から降りてくる。相変わらず二色のザルを頭にかぶっている。階段の下から複数の女子がこの様子を見守っている。嫉妬の目を燃やして。



 スカートはまくれ上がり太腿が露出しているし、セーラー服ははだけインナーとブラのストラップが丸見えの私をこのみちゃんが必死に隠そうとしてくれる。


「あ、大丈夫だから、俺に……」


 王子は片手を私の背中に回し、上体を起こしてくれた。腰が彼の膝で下から支えられている。胸の谷間が見られて恥ずかしい。すると、その思いが通じたかのように、彼はセーラー服の前身頃を寄せ片手でホックを一つだけ留めてくれた。ちょうど胸の谷間だったけど、彼の指はたぶん私の胸のふくらみを感じ取っている。ブラの上から体温がジワリと伝わってくる。


「はぁっ……」


 漏れた息に声が混ざり、慌ててくちびるを押さえた。なんでだろう。なんで声が漏れるんだろう。こんなの初めての体験だった。


 上にあったこのみちゃんの目が、エレベーターから見る景色のようにすうっと下がり、今は私と同じ位置にある。そう、私はお姫様抱っこされたのだった。


 ウソみたい。私、王子さまに抱かれている。嬉しいのと恥ずかしいのがごちゃ混ぜになって私はどうふるまっていいのかわからない。一応、彼の首に腕を絡める。だってそうしないと私の体重がもろに彼の腕で測られてしまうから。


「あ……、あの……、そ、そこは……」


 背中から廻って来た手が腋を経由し、乳房の膨らみにスーッと忍び込んで来る。腋の下か乳房か判断が曖昧な領域。そこの膨らみと柔らかさが彼の手のひらに吸い取られている。女の子の秘密が暴露されたような心もとなさ。


 ホクロもニキビもないきれいな顔に見下ろされる。その瞳に射られたように私は動けない。ただただ、ぼうっとして見上げるのみ。顎の下に不精ひげが顔を出している。それが何ともセクシーに見えてしまったのは、きっと彼に乳房をつかまれているからだ。


 王子さまだ……。この人、本当に王子さまなんだ……。ザルの王子さま……。桜坂の王子さま……。


「ちょっと、キミたち、どいてくれない」


 一年生女子たちの群れをかき分けかき分け、彼は廊下をグングン進む。トコトコと子供のような足音がついてくるのは、このみちゃんだ。王子様の一歩がこのみちゃんには三歩だ。


 保健室に運ばれていく途中、さっき体育館前にいた女子とすれ違った。他のクラスの一年生だった。スカートが長くて、昭和のスケバンみたいだ。お姫様抱っこで片乳がすっぽりの彼の手のひらに収まっている私を睨んで通り過ぎる。


「フミカ! このコ、ぎっくり腰!」


 保健室。王子の一声にデスクで書き物をしていた養護教諭が立ち上がった。


「ハハ! 高校生がぎっくり腰だぁ?」


 蓮っ葉で尖った声の方を見る。


 若い! キレイ! 素敵!


 二十五、六ぐらいか。 背がすらっと高く、豊かでツヤツヤの髪の毛が腰のあたりまである。こんな綺麗な先生が学校にいたとは知らなかった。王子は彼女をフミカと呼んだ……。一体どういう……。


 シャッとカーテンのあく音。


「ここに寝かして」


 王子さまのうしろからこのみちゃんが出てきて、毛布をまくり上げてくれる。まるで侍女が王女のベッドメイキングをするかのように。


 ベッドにゆっくり下ろされる時、乳房を掴んでいた彼の手にググっと力が入り、私のくちびるからは「んふぅっ」と、また変な吐息が漏れる。


 もう手を放してくれてもいいのに、私に腕枕をしたまま覆いかぶさって来だ。たくましい胸に乳房が潰される。わざとそうされているのがわかった。私と彼とがこんなにも近い。ほのかな汗の匂い。私からは変なにおいがしてないかと気になる。


 ほかの男子なら気持ち悪くて鳥肌が立つ場面だ。だが……、うっとりしてとてもいい気分だ。もっと近づいてほしい。胸と胸を合わせてほしい。汗の臭いをもっと嗅ぎたい‥‥‥。


「何よ。前がはだけてるじゃん。朝っぱらそういうことをしてきたの?」


 養護教諭らしからぬ感情的な甲高い声を上げ、私の前身ごろをわざと開く。


「おう。アクロバット体位でやってたら彼女、腰ぬかした」


 フミカは腰に片手を当て「ふー」と息を吐く。


「また、そういう出鱈目でたらめを並べる。女の子の前で……。で、本当にジュンのカノジョなの?」


 フミカは触診をするかのように、ブラの上から私のふくらみを揉んだ。王子にも見られた。


「うん、大切なカノジョ。よく見てやってほしいんだけど」


 大切なカノジョ?……。再会を果たしてまだ10分も経ってないのに?……。悪い気はしない。でも、ちょ、ちょっと、アクロバット体位って? 


「ふーん、かわいい子じゃん」


 フミカ……、いや、養護の先生は私の顎を摘まみ右に左に動かし、顔をじろじろ観察している。その目にはねっとり潤んだ光があった。


「わかったわ。私が預かっとく。ちょうど退屈してたの。いいオモチャができてうれしいわ」


 と、意味ありげな笑みを浮かべている。綺麗な顔ほど憎々しげに見える。


「ジュンとこのみ、ごくろうさま。早く教室に戻りなさい。授業始まるわよ」


 養護教諭は彼とこのみちゃんに出て行くように促した。すると彼がスラックスのポケットから財布を取り出し、一枚の名刺をつまみ出した。


「腰が悪いんなら、ここ、お勧めだから」


 彼はいたずらっぽい笑顔を浮かべ、露出しているブラのカップにそれを挟み込んだ。名刺の角が乳首に触れ、躰がピクッとふるえた。


「あ、それから」


 彼がかぶっていたザルの内、赤いほうを私にかぶせ、青い方はもう一度自分にかぶせなおした。


「俺たちのペアルックね」


 ニコリと爽やかな笑顔を広げたと思ったら、「じゃ!」と後ろ向きに片手を上げ、保健室から出て行った。お礼を言う間もなかった。


 ジュンくん……。そうか、ジュンくんって言うんだ……。私の理想的な名前。やっと出会えた。私の王子さま。


 しかし、このフミカって何者? 本当に養護教諭? 教諭ならなんで彼を下の名前で呼ぶの? このみちゃんの名前も知ってた。女生徒のオッパイも揉んだ。あの潤んだ視線は一体……?



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