第11話 最後の砦、陥落

「……あー、マジやってらんねぇ……なんであいつらあんな自由なんだよぉ……」


 夜。

 タイムマネージャーの仕事も終わって、自室に戻ったルルスは、ソファに身を投げ出してそんなことを言っていた。


「お疲れ様です。また他の方々に頭を悩まされているのですか?」

「そうだよぉ……聞いてくれよメルーナぁ……あいつら反撃してくるどころか、私の感情までコントロールしてたんだってよー……? もう誰も信じられねえよお……」


 話を聞きながらソファの周りをうろうろしていたメルーナは、やがてダイニングチェアを持ってきて、ルルスの足側に腰を下ろした。

 そしてそのままルルスの片足を持ち上げ、優しくマッサージまでしてくれる。


「……先に言っておきますが、私は永遠にマスターの味方ですからね。この身にこの命を宿していただいたこと、この心にたくさんの愛情を注いでいただいたこと、何一つ忘れてなどおりませんから」

「うん……ありがとなメルーナ……本当に、ここまで言ってくれるのはお前くらいだよ……」


 試作期の九人は、それこそルルスと共に激動の時代を乗り越えてきた。

 数々の困難を共にし、それ以降の後輩たちを見守ってきた。

 その結果もう試作期のロボは三人しかいないが、それでもあれだけの苦楽を分かち合ったんだから、絆は相当強いはずなのである。

 だと言うのに、コルネはどうして……。


「……む。何やら他の女のことを考えていますね?」

「彼女みたいなこと言うじゃん。あと私も女だからね?」

「これは言ってみただけです。しかし私以外のことを考えているのも事実でしょう」

「……まあな。コルネはなんで、あんな態度取るのかなって」


 独立前、一号がいなくなってからは本当によく活躍してくれた。

 忙しいルルスに代わって後輩たちを取りまとめ、日々大量に発生するやり取りを整理し、おまけにルルスの秘書みたいな立ち回りまでしていたんだから、あの頃はちゃんと慕ってくれていたと思うのだ。

 けれど今のコルネと言ったらどうか。まとめるべき後輩と一緒になってマスターに反抗し、なんなら率先して言葉のナイフでグサグサ刺してきて、挙句本人には言っちゃいけない裏事情まで思いっきり暴露しやがった。あれで敬意があるなんて言ったら絶対に嘘だ。まあ本人もないって言ってたからそれは指摘できないけど。


「そうですね……やはり、今と昔の乖離が酷いからでしょうか」

「……ずっと言われてんなぁ。今のあなたはどうのこうの。今のあなたには敬意を払えないだのなんだのって……」

「まあ私たちの暇潰しを見て暇を潰す今のマスターには、かつての威厳や神々しさみたいなものはありませんよね」

「お前も言うんかい。まあいいけどさ」


 て言うか神々しさか。え、昔の私って神々しかったんだ、なんてルルスは内心はしゃいでいるが、本能的な直感かそれを表に出すことはなかった。言ったら取り戻してくれって怒られるだけに決まっている。


「もうちょっと働けば、あいつらも見直してくれるかな」

「おそらくは。誰も出て行っていない時点で、心の中ではマスターに期待しているはずです。なら改めてマスターがマスターらしいところを見せてくれたら、今反抗的な人たちも振り向いてくれるはずですよ」

「……そっかぁ。じゃあちょっと、それっぽいとこ見せちゃおっかな?」


 よっ、と。腹筋を使って一気に上体を起こす。

 地味に足を持ってサポートしてくれたメルーナは、とても嬉しそうな顔で微笑んで。


「それは是非見たいですね。またあのかっこいいマスターが的確に指示を出してくれたら、みんな喜んでついていきますよ」

「ふ、そうか。なら、明日から頑張っちゃうぞー!」


 おー! なんて、メルーナも一緒に天へと拳を突き立てる。

 だけど、今のルルスはみんなが遊び始めるくらいには残念な頭で。


「それで、どうやったらマスターっぽく見えると思う?」

「………………。ご自分で考えてみてください」

「あっはい」


 超優秀なうちのロボットの、その中でもずば抜けて能力と忠誠心が高いメルーナでさえ、数秒フリーズした後に愛想を尽かせるくらい、今のルルスはポンコツだった。

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