第7話 四百番台
午前九時。
なぜかもう体力をほとんど使い果たしたルルスが、タイムマネージャーたちと合流した。
「……って、タイムマネージャーってこんなにいんのかよ!?」
「あ、いえ、大半は働くマスターが見たいだけの人たちです」
「何しに来てんだよ!」
全校集会みたいなノリで整列している奴らを適当に追い払っておいて、いよいよ体験業務の始まりである。
「で、タイムマネージャーって何やんの?」
「ではここから先は私が説明しましょう!」
「んお? おー、やけにテンション高けえなと思ったら四百五号か」
「はいっ! いつでもポジティブ元気いっぱい! 四百五番ちゃんがタイムマネージャーのリーダーなのです!」
「補足しておくと、家の中では最も勤勉さが必要な業務なので、タイムマネージャーも四百番台が担っているのです」
「……やべえな四百番台。割とマジで一番の成功作なんじゃねえの?」
なんてことを試作期生まれのコルネの前で言ったら、マスターへの遠慮も容赦もなく、思いっきり平手で後頭部を叩いてきやがった。
「ぃってぇっ!? 何すんだよ!」
「……我々一桁台はあらゆることをそつなくこなせます。私たち以上の成功作は存在しません」
「だったら四百番台並みの真面目さを見せてくれませんかね」
「……こなせるのとやるのでは話が違います」
「じゃあやっぱ失敗作じゃねえか!」
そうルルスが怒鳴ったら、パァン! と再びの炸裂音が響いた。
だが今回はルルスからではなく、むしろその真正面からで。
「喧嘩はダメなのです! コルネちゃんはみんなの先輩なんですから、もっと他の子たちの手本にならないとっ!」
「……ならまず先輩を叩くのをやめませんか」
「先輩もマスターを叩いたのでおあいこです!」
「むぅ……やはり四百番台は頭が固くていけません。マスターのことは任せますので、私は一足先に見回りに行ってきます」
珍しくコルネが言い負かされて、逃げるように部屋を出ていった。
「ぷぷ、怒られてやんの」
「マスターもあまり人の気に触れるようなことは言わない方が良いのです」
「ぐ……善処する」
ちなみに四百番台は外貨獲得のために生み出したシリーズである。
その性能はどちらかと言えばクリエイティブな方向に優れ、今世界を席巻している”ゲーム”という娯楽を生み出したのもこいつらだったりする。
つまりはお手伝いロボたちを夢中にさせて堕落させた元凶もこいつらなわけだが、外で人間相手に真新しい娯楽を売り込めるよう設定しただけあって、他の連中よりも勤勉かつ常識的、しかもマスターへの忠誠も忘れていないという最高な奴らなので、ルルスは怒るどころかもっと頑張れと言うしかないのだ。
型を使って作ったはずなのに、他の奴らに比べて一回り小柄な四百五号を見下ろして、ルルスは仕事の前に一つ提案してみる。
「あー、ところで四百五号。お前は、名前欲しかったりするか?」
「っ!? そ、それはもちろんなのです! ですが、その……」
「その?」
「……先輩方はまだもらっていないのに、私が先に頂くのは申し訳ないのです。せめて四百番台の先輩方が名前をもらってから、良ければ私にも欲しいのです」
「……やっぱ四百番台が最高傑作だろ。なんだよこの気配りと愛らしさ。もうなでなでどころか抱きしめたくなっちまう!」
なると言いながら本当に抱きしめたルルス。
四百五号は一瞬びっくりしたように硬直したが、すぐに二の腕を叩いて抱擁を解除させて。
「ダメなのです、マスター。お気持ちはすごく嬉しいですが、四百のお姉ちゃんは序列に厳しいのです。私だけこんなに良くしてもらったら、後で怒られちゃうのです」
「え、あいつってなんかいっつもボケッとしてる感じあったけど、そんな厳しいの?」
「目が完全に開くととっても怖いのです。あ、これはお姉ちゃんには内緒ですよ。バレたら作業用アームで一時間ペチペチされちゃうのです」
「何その新しい拷問」
ルルスの知らないところで一体何が行われていると言うのか。聞いただけでは何一つイメージできなかった。
「ですから、私たちには上から順にくれると嬉しいのです。後ろの子たちのように、先輩がマスターから愛をもらっている分には、文句なんて言わないですから」
「……一番ほんわかしてる感じで一番厳しいのな」
その後輩たちをよくよく見れば、羨ましいと言いたいのをグッと堪えているような顔をしているし、四百五号の言っていることは何も間違っていないのだろう。
「じゃあ今度五人の先輩見てくるな。きっと四百番台は全員真面目なんだろうから、すぐにお前にも名前がつくと思うよ」
「それは嬉しいのです。お姉ちゃんたちをちゃんと評価してあげてください」
「ん。わかった」
ルルスの隠居生活の要である四百番台の裏事情が知れたところで、いよいよ業務開始である。
「ではマスターは私についてきて欲しいのです。他のみんなはいつもの巡回ルートで見回りを始めてください。そして今日は要注意の百九十八番さんと三百七十二番さんがいるので、もし力不足になることがあれば遠慮なく呼んで欲しいのです」
「「「イエス、マイシスター!」」」
息ぴったりに大声で返事をした後輩たちは、それぞれの扉から駆け足で出ていく。
まるで軍隊みたいなその動きに、さしものルルスも目を丸くするしかない。
「……なんか、本当に序列あるんだな」
「ふふふ、四百番台は少し関係が歪ですからね。それでは行きましょうかマスター。今日はきっと、いつもより捕まえやすいと思うのです」
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