第3話 この悪辣さは誰譲り?

 さて、毎日あくせく(?)働いている少女たちが全員休みになってしまったので、あらゆる業務が止まっている。


「ああもうっ、洗濯とかすんのいつぶりだ? てかなんで未だに洗濯板なんか使ってんだよ。あれ? 洗濯機作んなかったっけ?」

「マスター、洗濯機は二年前に壊れて以降新しいものがありません」

「二年……? 二日じゃなくて?」

「はい。正確には二年と一ヶ月と二日です」

「……よぉーしわかった。わかったからその目で私を見るのをやめようか」


 二年間全員分の服を洗濯板で洗っていたかと思うと申し訳なくもなる。

 ルルスはとりあえず洗濯は放置して、洗濯機作りに向かおうとした。が。


「マスター。今日は休みです。であるなら、私は今日持ち越された仕事を明日やる必要はないと思うのです」

「……コルネ。私はみんなの生活を豊かにしたいと言ってるんだ。この手を離してくれないか」

「マスター。私は何度も進言したはずです。洗濯機くらい私たちでも作れると。なのにその度マスターはなんと仰いましたか。私がやった方が早い。私が作った方がいい物ができると。おかしいですね。私たちは洗濯機作りに二年の歳月は要しません」

「……わかった。わかったからその目で覗き込んでくるんじゃなぁいっ!」


 深い深い闇に飲まれそうなコルネの目から逃れて、ルルスはとりあえず自室に駆け込む。

 その後ろにわらわらと少女たちがついて来ているのは、ようやっと洗濯機が導入されるからなのか。そうなのか!?


「監視です」

「おぉう……言葉の棘がいってぇなぁ……」


 胸の辺りを押さえながらも、棒付きキャンディを取り出しそれを口に放り込む。


「マスター、いつもいつも作業する時に舐めていますが、それはなんなのですか」

「あー? 言ってなかったっけ。集中力アップの飴だよ。ま、気がするってだけのただの飴なんだけどさ」


 一個食う? とコルネに渡してみれば、監視だと言っていた少女たちが一斉にそちらに集まって行った。


「今のうち今のうち〜」


 ささっと大容量洗濯機を完成させて、洗濯という仕事は終わらせておく。


「……私たちが争奪戦をしている間に終わっていました……」

「ふ、年季が違うんだよ年季が」

「年増」

「ばっ……かお前、言い返せねえじゃねえか」


 Q:ルルスの年齢は?

 A:四十☆


「てか争奪戦勝ったのな」

「私は唯一の名前持ちですから!!」

「あー、はいはい。今度もう一人くらい増やすわ」

「!? ま、待ってください。悪口を言ってすみませんでした。今日の業務も手伝いますのでどうか、どうかもう少しこの愉悦に浸らせてください……!」

「理由がクズ」


 これはいくつか名前を考えておいた方が良さそうだ。次に名前が欲しいと言ったやつには何かあげよう。


「で? 手伝ってくれんの?」

「名前を与えないと言うのなら」

「お前マスター相手に普通に交渉してくるよな。まあいいや。じゃー、次に私のところに来たやつにつける」

「「「!?」」」

「明日までに来なかったらまたしばらくな〜し」

「「「!?!?」」」


 どんな火種をばら撒いたかも知らないで、ルルスは厨房へと向かう。

 次は朝食の準備だ。


「マスター、惨いです」

「あれ? 巻き込まれてないじゃん。てっきりコルネが一人で抑え込む展開だと思ってたのに」

「私たちを甘く見ないでください。今、誰が名前を貰うかでゲーム大会が開催されているところです」

「……お前らマジで人生謳歌してるよな」


 今頃、ただでさえ持て余している高性能な頭脳を無駄に使って、ルルスには理解もできないハイレベルな試合が展開されているのだろう。


「それでコルネは手伝ってくれんの?」

「…………」

「コルネ?」

「今、私の中のギャンブラーとしての魂が叫んでいます。明日までに決着がつかないことに賭けて手伝うか、誰かしら抜け駆けしてくると踏んで見守るだけにすべきか。いいやそれでもマスターは与えないと読むか!」

「……なんでもいいけど卵あったから、今日は卵かけご飯な」


 調理工程。卵を割る、米の上に乗せる。ん?


「米ねえじゃん! 誰だよ炊いてないやつ!」

「マスターです」

「誰だよ今日休みとか言ったのおっ!」

「マスターです」

「うっせえなわかってんだよおおおおぉぉぉぉっ!」


 朝食は、まだまだ遠い。

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