第2話 上げて落とす? いいえ、上げた分の対価を要求するだけです

 ここでの日々は毎日が戦争だ。

 と言うのも、マスターであるルルスの前に、時間厳守で食事が運ばれてくることはない。

 これが意味するところとはつまり。


「今日はあなたの担当です」

「違います。私は三百二番に頼みました」

「そのあとコルネに頼みました」

「私にその仕事はありません。なぜなら私は、マスターより名前を授けられた唯一の秘書係!」

「……五百十三番?」

「では勝負です! 腕相撲で負けた方が料理当番ということでどうでしょう!?」

「それを受ける意味がありません。拒否します」


 そんなことを言った五百十五番の顔が横を向く。

 五百十三番に殴られたせいだった。


「……やりましたね?」

「最終手段は物理で解決。それが私たちのルールのはずです」

「五百番台は後へ行くほど強いということを教えてあげましょう」


 ゴンゴン殴り合いを始めた二人に、唯一人間の拳が落ちる。


「どーせ殴り合った後で私のところに来んだから、最初っから五百十三号がやれよ! 担当だろぉ!? わ・た・し・が決めた! 担当だよ!」

「……申し訳ありません。後でやってみます」

「今やれよ! 時間過ぎてんだよ!?」


 これがロボットたちの欠点だろう。

 容姿端麗文武両道手先は器用で喋りも上手い。どこに出しても恥ずかしくない、誰もが羨むロボットを作った。はずなのに。


「どうして! お前たちは! そう怠けたがる!?」

「「「マスターに作られたからです」」」

「ぐぅぁっ……!?」


 マスター、撃沈。

 子は親の鏡とは言うが、全てを与えたのだから感謝して楽させてほしい。ていうかそのために作ったんだよ!?


「マスター、お言葉ながら、私たちを作った当時を思い出してください。そして、後輩たちの制作過程を」

「え……? 確か、晩飯代わりのジャーキー食いながら、戦争の様子眺めて軍事力ひっくって笑ってたくらいだろ……」

「……それで、感謝をすると思いますか。何度もパーツ取り違えられて、時には廃棄前のオンボロ使って! これの! どこに! 感謝できる要素があるんですかっ! 楽をしたいのなら、まず私たちに感謝をしてください!」


 そーだそーだー! と、どっから湧いて出てきたのか、何十人もの少女たちが声を上げる。


「そ、そうか……うんまあそうだよな。私が悪かったよ」

「いいんですマスター。そもそも私たちはマスターがいなければ命さえ与えられなかった存在。感謝はもちろんしていますとも」

「コルネ……」

「と言うわけで、明日一日私の業務を肩代わりしてください」

「へ?」

「あ、では今日の晩ご飯も」

「あ?」

「では私も」「私も!」

「おい待てそこまで許したつもりはないぞ。おい? ちょ、まっ」


 こうなるとマスターでさえ収集はつかない。

 さっき声を上げた人数よりもさらに増えた気がする少女たちにもみくちゃにされて、ルルスはヤケクソ気味に叫ぶ。


「ああもうわかった! 明日は全員休みでいい! だから私を解放しろぉっ!!」

「「「ありがとうございますっ!!」」」

「ここで感謝してくんじゃねえええよおおおおぉぉぉぉっ!!」


 ルルスが本当にマスターになれる日は、まだまだ遠そうだ。

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