八日目 寝坊の気づき

 結局、由衣とは喧嘩別れのようになってしまった。

 そもそも夏祭りに行くかどうか、今のところ決めかねている――そんな風に言ったなら、それならやっぱり私たちと一緒に行こうと再び誘われ、また嫌だと繰り返す。

 思わず孝希に向かって、「喧嘩でもしたの?」と率直に聞いたなら、孝希ではなく由衣が「違うわよ!」と叫び、「もういい!」と恋人の手を引いて出ていく。

 残された小夜は、なんなんだと眉を寄せた。

 恋人と一緒に行く夏祭りに、何故、余分な自分を同行させようとしたのか。

 思いつくことと言えば、恋人と二人きりで行くための口裏合わせ、従兄弟の子守の言い訳、従兄弟の子守の委託、そして喧嘩中の恋人への無言の圧力。

 喧嘩中の恋人、という部分はあれだけ否定したならないとして。

 口裏合わせは、そもそも恋人であることを隠しているわけでもないから今更。

 子守拒否の言い訳なら、友だちを出さなくても恋人の孝希がいるだけで十分だ。

 あれで責任感のある由衣が、従兄弟たちと知り合いでもない小夜に、何の相談もなく子守を押しつけるはずもない。

(あのチラシの内容も、今年何か特別なことをやるわけじゃなさそうだったもんな……。なんだったんだろう?)

 どれだけ考えても由衣の申し出の理由が見当たらず、小夜は頭を掻く。



 次の日の朝。

(なんか……いつもよりまぶし……)

 カーテン越しの日差しに、あー晴れてんだなー、と思った小夜。

 ごろりと身体を転がしては、引き寄せた携帯電話の時間を見て起き上がる。

「うわっ!? 寝坊した!?」

 いつものアラームが聞こえた憶えも、止めた憶えもないのに。

 そう思ったが、よくよく思い返せば一週間前はアラームで起きたわけではない。

 完徹のまま、何の気なしに公園に向かったのだ。

 そして姫に会い、ラジオ体操のために毎日起きるように心がけて――。

「とか、どうでもいい!」

 特に約束していたわけでもないが、ここに来てのこんな寝坊は、なんとなく姫に申し訳ない気になった。

 手早く用意を済ませて、「あら、今日は遅かったのね」という母への挨拶もそこそこに公園へ。

 急いだお陰か、ラジオ体操が始まる直前には間に合ったようで、近所のおばさんがラジオの音量を調節しているところ。

 ほっと一息つきつつ、いつものように姫のところへ向かおうとした小夜だが、その光景に足が止まった。

 いつもの不審者然の姫のところに集まる、数人の小さな影。

 警戒している様子もなく、何かしら談笑している。

 なんとなく近づく気になれずにいれば、小夜に気づいた姫が手を上げた。

 これに小さく手を上げた小夜は、姫の動きに気づいた子どもがこちらを向く前に、始まったラジオ体操に合わせて身体の向きを変えた。

(……そーいや、考えたことなかったな。自分と同じような子どもがいるって)

 小夜が同じ年頃の時にも、姫と知り合いになった子どもは小夜だけではなかった。

 知っていたはずなのに、忘れていた。

(もしかしたら……)

 あの子どもたちの邪魔をしていたのだろうか。

 そんな風に思ってしまったなら、申し訳なさが先立ち、ラジオ体操が終わった後も姫に話しかける気すら起こらず、小夜は手だけを振って公園を後にする。

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