六日目 大本の未確認生物
あの時、恐怖に震えていた小夜だが、ソレに感じていたのは不快だけ。
本当に恐怖していたのは、ソレをやすやす倒した姫に対してだった。
もしもあの時、姫にしがみつかず、ソレはもちろんのこと、姫からも逃げていたなら、小夜の姿は二度と公園に戻ることはなかっただろう。
それなのに、恐れた相手にしがみついていたのは、惜しんだからだ。
あの化け物と対峙して判明した姫の、躊躇いのない一撃。
心底震えても、それだけで遠ざけるには惜しいと。
――理由の一端をあの化け物が担うことになる不快さもあったが。
その後、どう過ごしたかの記憶は曖昧だが、次の日の朝、自宅から公園へ恐る恐る向かった小夜は、そこにいる姫の姿に安堵し、その隣にいる見覚えの在る和装束に思いっきり顔を顰めることになる。
ソレの名を
名乗ったのはソレ自身だが、小夜は憶えることなく、姫の語りだけを聞いた。
昔からこの地に存在しており、雨に現れては世に仇為す化け物として恐れられていたらしい。ただし、記録として残されたモノはないため、今では知る者がないとも。
知る者がいないのは、露を目視できる人間がほとんどいなくなったため。
小夜が見えてしまったのは、姫と交流していたせいだという。
姫曰く、昔々、この土地の主を名乗る
できれば完全消滅をさせたいのだが、大本である未確認生物自体が不死に近い存在であるため、露も殺したところで一日現れなくなるだけで、次の日には殺されるまでの記憶を有した状態で、新たに生じてしまうらしい。
とにかく、厄介な存在なのはよくわかった。
ついでにそれは未確認生物ではなく、土地神とか、そういう存在なんじゃ? と思い、姫にも聞いてみたが、彼は頑として
よくわからないが、そっちの方がロマンがあるらしい。
本当に、よくわからなかったが。
それはそれとして、そんな存在の負の部分から生まれたという露ならば、あの止め処なく込み上げてくる不快感にも説明がつく気がした。
一通り説明を終えた姫は、「それじゃ、目を瞑ってくれ」と言いつつ小夜の目を手で覆い、「もういいぞ」と外しては、いつもの公園を見せてきた。
露の姿は影も形もない。
目隠しの一瞬で殺したのだと容易に想像できた。
「今みたいに少し早い時間にここへ来ると、ヤツがいるから気をつけろ。いつもの時間なら、陽もだいぶ昇っているから大丈夫だ。露は雨のない陽の中では姿を維持できないからな」
「そうなんだ」
「まあ、他の子どもや大人たちは、未確認生物が来ないようにしてくれているはずなんだが……俺を目当てに来ている小夜を止めるのは難しいからな」
「…………?」
声に出して改めて本人の口から言われると、何か違和感を覚える。
かといって、そういう訳でもないとも言えない、確かに姫に会いに来ている小夜は、眉根を寄せることしかできず。姫にも別段、含むところがないと知っているからこそ、余計に何も言えなくなるばかりであった。
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