五日目 雨の日
目覚めと同時に耳に入ってきた雨音。
静かな朝に響く窓越しのそれに、小夜は布団の中でため息をついた。
(結構降り方が強いな。……これじゃあ今日は中止だね)
最近の日課が急に取り止めになれば、起きる気力もなくなる。
(そーいや昔、それでも行った日があったっけ)
もしかしたら姫は来ているかもしれない。
そんな思いで向かったなら、そこには誰もおらず――……
(……あれ? そうだったっけ?)
ふと違和感を覚える。
しばらく考えようとするものの、何故か上手く当時を描けない。
雨に煙る公園。
子どもの姿はなく、姫の姿もなく。
見守りの大人も見えず、ただ……。
(うん。止めよう。二度寝しよう。どの道、今日はどうせ姫は来ない)
あと少しで何かを思い出せる、その瞬間に小夜はばっさりと考えを打ち切った。
考え進めることで目が冴えてしまう、そう自分に言い聞かせて、振り切る。
次第に膨れていこうとする、嫌な予感を封じ込めるために。
代わりに思い描くのは、雨の日に来なかった姫への問いかけ。
どうして、雨の日は来ないのか。
ストレートに聞けば、姫は真っ黒に染まった目をぱちくりさせて答えた。
「どうしてって……誰も来ない公園に来る気はしないだろ?」
この答えに当時の小夜は眉間に皺を寄せると、再度尋ねたものだ。
それってつまり、やっぱり子ども目当てで……?
いつもの冗談は抜きの、完全に本気の目で尋ねたなら、ぎょっとした姫はブンブン音がでそうな勢いで、手と首を振っていた。
早朝の爽やかな夏の空気の中、賑やかにしている場所に惹かれてしまうのだと付け加えて。自分にはない子どもたちの明るさが、心を穏やかにさせてくれる――そんなことを言っていた。
確かに、欠片も見当たらない死んだような目で、しかし、珍しく頬を紅潮させて柔らかく子どもたちを見る姿に、小夜は何故かほっとしたのを覚えている。
――やっぱり姫は……とは違うんだ。
(ん? 今、何か……)
回想に混ざり込んだノイズ。
何と比較して違うと思ったのか。
深く思い出そうとした小夜は、しかし、先ほどと同様、すぐさま諦めた。
(これはたぶん……眠いんだ、きっと。まだちゃんと頭が起きていないから、変な思い出し方をしている。そう、そうに違いない。だから、今は……)
寝よう。
不可解な不快を放り投げ、小夜は布団を被り直して目を閉じた。
これ以上何も考えないように、深く、大きく、息をつきつつ。
しばらくして、再び聞こえてきた寝息。
降り続く雨は、全てを覆い隠すように音を響かせ続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます