閑話 不審なモノ

 由衣がソレと初めて遭ったのは、小夜を通してだった。

 朝の公園で、真っ直ぐに彼女が向かった先にいたソレは、本当にこちらを見ているのかわからない目を向け、「はじめまして」と言った。

 口元は笑っていて、目元も笑っていて、しかし、黒目は真っ暗。

 仮に身なりを整えたところで、とにかく異質だった。

 それなのに、小夜は全く気にしない様子で、由衣と同じようにソレに接していた。

 異常だと思った。

 ただでさえ相手は見ず知らずの、くたびれた大人の男で、もっと警戒した方がいいはずなのに、小夜はすっかり打ち解けた顔をしている。どちらかと言えば、小夜の方が人見知りしがちな性格なのだが、ソレ相手では由衣と入れ替わったように、いや、それ以上の気安さで話しかけていた。

 だから由衣は、こんな気味の悪い男に恋をしているのかと解釈した。

 そして、小夜の男を見る目のなさにドン引きしていた。

 しかし――。

 久しぶりに会った彼女は、ラジオ体操に向かう途中だった。

 中学の時は小学生に混じるのは恥ずかしいと言って行かなかったのに。

 何故、また?

 不可解に思いつつもソレの話を持ち出せば、ショックを受けたような顔をしていたが、それは昔を思い出してというよりも、最近のことを思い起こしているだけのようで、由衣は嫌な予感がした。

 もしかして、また、アレに会っているのか。

 遠回しに聞けば、予感は的中する。

 これを境に、由衣はソレの見方が少し変わった。

 もちろん、悪い方向に。

 小夜の反応は恋する者とは言い難かったが、それゆえに、思う。

 もしかしたら小夜は、アレに操られているのではないか。

 アレに親しみを持つように、それとは気づかず。

 不穏な想像は幼い従兄弟たちのお守りから解放されても振り払えず、恋人の前でも晴れることはなく、「どうした?」と聞く彼に、由衣は相談する。

 彼――孝希こうきもまた、アレに遭い、由衣と同じ感想を抱いていたから。

 真剣に、自分の考えすぎだと思いたい考えを明かす由衣に、しかし孝希は否定をしてくれず、それどころか昔、自分の家族に聞いた話を教えてくれた。

 アレは昔から変わらない姿であの場所のあの時間帯に現れるらしい、と。

 目撃者は大半が小学生で、大人がアレに気づく様子はない、と。

 一方で、小学校を卒業後、アレに遭う者は滅多にいない、と。

 小学生の時に遭った者でも、大人になれば遭うことはなくなる、と。

 そこで由衣は気づいた不安を問う。

 まだ自分たちは大人ではないが。

 今もはっきりとアレを見ているらしい小夜は、大丈夫なのか。

 孝希はここで考える素振りを見せ、提案する。

 実は、自分の知り合いに、この手の話に詳しい人がいるんだけど――。

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