第8話 関係性の所感

 ――小夜は……俺のことを一体どういう存在だと思ってんだ?

 ラジオ体操からの帰宅後。

 いつも通り朝食を済ませた小夜は、姫から言われた言葉を思い起こしていた。

 言葉だけをなぞれば、何かしら意味深に聞こえなくもないが、これが呆れ混じりの姫の声で再生されたなら、言葉以上の意味を持つとは到底思えない。

(私が姫のことをどう思っているか……それはまあ、私より大人、かな)

 今も昔も変わらない認識だ。

(というか、由衣の目にはそう映っていたなんて、全然思っていなかったぐらいだし。恋人のいるヤツの色眼鏡って怖いわ-)

 幼馴染みの恋人もまた、小夜にとっては幼馴染み。小4から今も続いている恋人関係に、続いて欲しいと思う反面、この手の話をぶち込んでくるのは面倒だとも思う。

 恋愛対象になり得る性別と絡めば、それ即ち恋、という考えは小夜には全くなかった。少なくとも、姫に対しては、特に。

(私にとっての姫は……どれだけ成長しても大人で、子どもでいられる相手って気がする。ウザ絡みしても本気で拒絶されたことはないし、でも、危ないこととかしそうなら本気で叱ってくる。家族より近すぎず、友だちよりも親しくなくて、それでいて落ち着く、赤の他人で大人の相談相手……。うん、そんな感じかな)

 自分の中でしっくり来る答えに自然と頷いた。

 ただ、小夜は相談と言える相談を姫にしたことはなかった。そもそも、夏の限られた時間でしか会えない相手なら、そんな機会はこれからも巡って来ないに違いない。

 それでも、相談したならきっと、姫は一緒に考え、悩んでくれる。

 不思議と起こる信頼感は本物だった。

 何故かと尋ねても答えはない。

 小夜の中にあるこの確信は、直感に近いものだ。

 具体的な説明は不要の、絶対的な事実。

 確認すればストンと腑に落ちる自分の答えに一人納得した小夜は、今日の予定へと頭を切り替えていく。

 明日の朝の予定は、公園に行くことで埋めつつ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る