第7話 不在の条件
姫はイケメンか否か。
急な問いかけには「ごめんなさい」と謝罪した小夜だが、それはそれ。
興味本位で「で?」と促したなら、死んだ魚のように光の失せた目が静かに横へ逸らされた。ボサボサ頭も掻きつつ。
「あー……ない、こともない、かな」
「マジで?」
「だから。なんつー目を向けてくるんだよ。いいだろ、別に。それでどうってもんでもないんだから。たかだかソイツのお眼鏡に適った程度のことだろ?」
「それはまあ。たで食う虫が好きな人もいるとかなんとか聞いたことあるし」
「……ずいぶんとつっこみどころの多いお耳と記憶力で」
姫が呆れ果てたように首を振る。
「とにかく、言われたところでってヤツさ。大体にして、イケメンとのたまったヤツは、それ以降、会うこともなくなったしな」
「え? それって……」
姫をイケメンと認識している者がいた――それだけでも小夜にとってはだいぶダメージが大きかったのだが、付け加えられた話はそれ以上に小夜の目を剥いた。
「つまり……世界規模で姫をイケメンと認めていない、認められないって話じゃ」
「何故そうなる」
「だって、姫をイケメンって言ったら、存在ごと消されちゃうんでしょ?」
「あのな? 誰がそんな物騒を言った? 会えなくなったって言っただろ? 言葉の通り、会えないだけで、ヤツらはその後もきっちり生きてるぞ?」
「え? 姫をイケメンって言ったのって、一人だけじゃないの? 他にもまだ?」
「……そこまでショックを受ける話でもないだろうに」
いつものくたびれ感以上の疲れを見せる姫だが、小夜は冗談ではなく、本当に驚いていた。驚いて――ふと、引っかかりを覚えた。
イケメンという評価、それ自体の見方を変えたなら、それは好意的とも呼べるもので、そんな好意を口にした途端に姫に会えなくなるというのなら――……。
不意に浮かんだのは、姫が自称する「かぐや姫」の物語。
自称の経緯を深く尋ねたことはないが、その意味するところはもしかして。
そんな風に小夜が思ったなら、
「そーいや、昨日も来てたのか?」
「え? うん……あれ? 姫も来てたんじゃないの?」
――来ていたが、由衣がいたから小夜にも見えなかった。
こうして気安く話し合う一方で、姫を自分とは違う存在と位置づけている小夜は、特に何も考えず、そう口にした。姫と会える人間には、姫と会える波長のような不思議なモノが必要で、波長のない由衣が一緒だと、そこにいても小夜の目には映らない存在なのだと。
対する姫は、不可解そうに眉を寄せた。
「ここにいなかっただろう? 昨日はなんとなく気分が乗らなかったんだよ」
「そう、なんだ」
「小夜は……俺のことを一体どういう存在だと思ってんだ?」
とても人間に近いが、人間の枠には収まらない存在。
「えーっと、夏休みのラジオ体操の時に現れる、不審者? 変人? 怪人?」
「うっ……」
本心はひた隠し、そんなことをへらりと告げたなら、思ったよりも傷ついたていの姫が、かと言って否定しきれない様子でうなだれた。
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