第6話 幼馴染みの視点
夏休み四日目。
どんよりした雲ながら降らない予報に向かえば、集まる子どもたちの姿と、昨日は見なかった姫の、低い柵に寄りかかるようにして座る姿がある。
「よっ」
挙げられる挨拶の手。
これに急な人見知りを発動した素振りで軽い会釈を返した小夜は、不思議そうな視線を受けつつ、自分も姫と同じような格好で隣に立つ。
そうして、そこから子どもたちを見、昨日聞いたとおり、来ていない幼馴染みを確認する。由衣が昨日来ていたのは、従兄弟たちの親に頼まれたためであり、小夜と同じく帰省しているものの、ラジオ体操には来たくて来たわけではないという。
――アンタと違ってね。
それはそれは嫌な笑顔であった。
(まさか、姫のことをそんな目で見ていたなんて……)
由衣の従兄弟たちは、昨日初めて会ったため、あの子ども集団にいるかはわからないが、ラジオ体操の用意をする大人とは別に、親と思しき姿もちらほらいるため、あの中の誰かが従兄弟たちの親なのだろう、きっと。
その目的は、不審者を警戒してのこと。
そして由衣にとっては、昔に見かけたことのある姫こそが第一に警戒すべき不審者であり――それなのに、そんな姫に好き好んで絡みに行く小夜は、姫に好意を寄せているかなりの好き者と思われていた。
甚だ遺憾である。
姫が警戒すべき不審者という点においては、何一つ間違ってはいないと思うが、小夜が姫をそういう目で見ていると思われていたのは、これ以上ないほど心外だった。
その上、由衣は言うのだ。
警戒すべき不審者と評しながら、姫のことを「まあ、正直顔はあんまり憶えてないけど、まともな格好させたら、イイ線行きそうだった気もするし」と。
そんな馬鹿な。
こんな、どう見てもくたびれた男が、どの線でイイ方向に行けると言うのか。
(いや、でも……もしかしたら、世間一般ではそういう認識なのかも?)
小夜には全くもって理解しがたい話だが、時に世間は小夜的にピンと来ない人の容姿に、高評価を付けていくことがある。もちろん、小夜と同じように感じる者もいるから、たまたま少数派なだけだったのかもしれないが。
とはいえ、まさか……いやしかし。
「あーっと、小夜?――ひっ!」
戸惑う声をかけられ、ぐりんっと音がしそうな勢いで、子どもたちから姫へ顔を向ける。疑り全開の見開いた目で、くたびれに青ざめを加えた顔をまじまじ眺め、
「姫って……イケメンとか言われたことあった?」
「は? い、イケメン? なんで――」
「ないよね? ないでしょ? あるわけないもんね!? ありえないと言って!」
「な、なんなんだよ、一体。どうした? というか……俺に恨みでもあんの?」
前置きのない全否定をぶつけられ、少なからず傷ついた様子の姫を前にして、小夜が正気を取り戻すまで、あと少し。
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