第5話 周りの目
夏休み三日目。
今日も今日とて公園へ向かう小夜の背に声がかけられた。
「あ、小夜! 久しぶり!」
振り返れば左右それぞれに子どもと手を繋ぐ、同い年の見慣れた顔。
「
「アンタと同い年なのに、こんなデカい子どもいるわけないでしょ!」
「うわっ」
両手を塞がれた幼馴染みの鋭い蹴りに、小夜は慌てて逃げ出した。
――たぶん、今日は姫に会えない。
冗談を口にしながら、由衣を見た瞬間に小夜はそう思った。
果たして、公園には本当にくたびれ男の姿はなく、そうなるとどこに陣取ったものかと迷う肩にぽんと置かれた手。
姫とは違う細さと小ささ。
間違いのない相手に振り向いたなら、やはり、そこには由衣の姿が。
「……お母さん、お子さんから目を離したら駄目じゃない」
「アタシの役目は送迎だけ。公園には友だちがいるから大丈夫。それと……アレは従兄弟であって、アタシの子どもではない」
「うん、もちろん知ってる」
悪びれもなく頷けば、向かい合った小夜の両肩に改めて重く手のひらを乗っけた由衣は、唸るような声で低く言った。
「アンタが変わりなく元気なのは嬉しいけど……そういう冗談は外では、特にこの近所では止めて。面白おかしく尾ひれ背びれどころか、ない足まで嬉々としてつけてくる、噂好きの厄介なババ――おばさんがいるって、知っているでしょ?」
「すみませんでした」
真剣な訴えには素直に頭を下げる。
(そーいや、いたなぁ、そんなの。私は特に何もなかったけど、由衣は思いっきり被ったからなー。良くも悪くも)
結果として片想いが実ったとも言えるが、真っ赤な他人が暴走した挙げ句の成立は、今もしっかりと遺恨を残しているらしい。
蚊帳の外にいた自分にとっては大変だと思うくらい――と投げやりになりかけた小夜だが、そう言えばと思い出す。
暴走した噂好きには思うところは確かにないが。
(……ああ、思い出した。姫に初めて会った時、なんで由衣と喧嘩したのか)
両片想い。
そんな幼馴染みたちの恋の鞘当てに、関係なしに思いっきり巻き込まれた当時が蘇った小夜は、何も知らない顔で「よろしい」と腕を降ろした由衣の頬を、両手でムニッと挟むのだった。
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