第八譚:牡丹燈記 其の弐
ちょっとくたびれた濃紺のスーツに身を包み、これまた少し傷みを覗かせる革靴を履いて、俺はとある寺に足を踏み入れた。俺は自称探偵、またの名をなんでも屋さん。人間同士のトラブルや人探し、物探し、あれこれと他人事に有料で首を突っ込む仕事をしている。大体警察や行政に頼めない内容なわけだから、その質が悪いのは承知の上だ。前回の依頼も、
「うちの大事な雌猫ちゃんを孕ませた雄猫を探して欲しい。」
という、常識で考えればわかるほど解決困難な案件だった。名探偵ポアロが誇る灰色の脳細胞でも、ボギーが演じたフィリップ・マーロウの
俺は灰色の脳細胞にも、気障にも恵まれていないから、仕事はなるべく実直にこなすことにしている。くたびれたスーツと傷んだ靴は一般的なサラリーマンに扮しているわけではなく、一丁羅だから着ているわけで。
話を本題に戻そう。今回の依頼も
「数年前に堕胎した、赤ちゃんの墓を探して欲しい。先日見てもらった霊能者によると、あれ以来私に子供が出来ないのは、ひとりぼっちのあかちゃんが寂しいと泣いているから。」
この仕事を受けるまでは俺も知らなかったのだが、妊娠22週前に堕胎あるいは死産した場合、出生届は提出されない。戸籍に入ることなく、そのまま荼毘に付されるそうだ。大概は堕胎を請け負った医者の所で、集団埋葬してくれるようだが今回のケースは違った。堕胎を行った病院から死産証明書を受け取り、火葬許可証を受け取った誰かがいる。そしてようやくその堕胎された赤ちゃんが埋葬されている寺に俺は辿り着いたわけだ。
「こちらのお墓にご家族として埋葬されております。」
俺は予想外過ぎる寺の住職が放った言葉に違和感を覚えた。戸籍すらない堕胎された赤ちゃんに家族が出来て、その墓に入っているなんて。
住職の説明に俺は仰天した。なんと堕胎された赤ちゃんは女の子だったようだが、若くして病死した男の子と結婚、正確には
しばらく思案に耽っていた俺の前に小さな少女と見紛うような、小さな体に幼子のようなおかっぱ頭、顔に刻まれた皺だけがその年齢を主張する、そんな老婆が現れた。
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