第七譚:天邪鬼 其の弐

「おばあちゃん、怖いよ。」


 車いすに座った私の膝にちょこんとおしりを乗せたまま愛らしくかぶりを振る可愛らしい孫娘、ああ今の私は幸せなんだなぁと痛感する瞬間だ。


「瓜子姫のお話は怖かったかい?」


 私が聞くと膝の上で孫娘は拗ねたように頬を膨らませて見せた。私の孫娘は瓜子姫よりも美しいかも知れないわね、ババ馬鹿とでも言われかねない思いが頭をよぎる。


「私は瓜子姫が生きていた話がいい、そっちにして頂戴。」


 孫娘はこともあろうに私の話した瓜子姫のストーリー改ざんを要求してきた。この子は本当に優しい良い子、以前読み聞かせた人魚姫のお話もラストを無理やりハッピーエンドに変えさせられた。


「尾之上順子さん、ご家族さん、そろそろ面会時間終了ですよ。」


 私の名前を呼ぶ声がする。そうここは私が入居している老人ホーム、残念だけど面会時間には制限があるのよね。


「えーっ、もっとおばあちゃんのお話聞きたかった。」


 そう言って別れを惜しんでくれる可愛い孫娘、そして自慢の息子ともっと自慢の出来た嫁。私の人生後半戦は本当に幸せだ。私が別れ際に孫娘に手を振ると、孫娘はもう一度私のところへ戻ってきた。


「次は瓜子姫が助かって、幸せになるお話にしてね。」


 そう言うと両親のもとに駆け戻った。私は彼らの車が見えなくなるまで玄関で手をふりながら、


「幸せになるのが瓜子姫とは限らないのよ。」


と呟いてみた。

 

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