第五譚:座敷童 其の壱

たんと伝わる 昔の話


嘘か誠か 知らねども


昔々の 事なれば


誠の事と 聞かねばならぬ


 昔々からの言い伝えで、座敷童という妖怪がおるそうな。この妖怪は小さな子供の姿をしていて、いつも家の中にいるのを好む。座敷童は決して言葉を発することなく、その家から出ることも無いと聞く。座敷童が住む家には沢山の幸せと財産が舞い込むと常に大事にされていた様子。その座敷童が言葉を交わしたり、家から出てしまうと途端にその家は不幸に襲われるとか。


 とある村に座敷童が住み着いていた長者屋敷があった。座敷童のおかげでその家は大層福に恵まれ、皆幸せに暮らしておったとのこと。しかしある日の事、長者屋敷の近くで畑仕事をしていた若夫婦が、小さな子供と行き会った。聞けばその子供長者屋敷からやってきたとか。あの屋敷にこんな小さな子供がおったかといぶかしむ若夫婦に、その子供は悲しそうに口を開いた。


「あの家はもうだめだ。」


 その子供は悲しそうに背中を丸めたまま、とぼとぼとどこかへ消えてしまった。心配になった若夫婦は長者屋敷を見に行った。屋敷に入った若夫婦が見たのは、屋敷中の人たちがあちらこちらに倒れている恐ろしい風景であった。恐る恐る一人ずつ確認しても息のるものはおらなかった。そして死んだ家人たちの横にはキノコ汁が入っていた椀が転がっており、そのキノコを見て夫婦は悟った。毒キノコに当たってみんな死んでしまったと。そしてもう一つ若夫婦が気付いたのは、先ほどの小さな子供がこの家を守っていた座敷童であったこと。


 言い伝えの通り、座敷童が言葉を話したり、家から出ていったりするとその家は不幸に襲われる。若夫婦は腰を抜かしたまま、しばらく不幸に祟られた屋敷から出られなかったと聞く。

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