第四譚:善知鳥 其の弐
僧侶から父親の死を知らされて数年、漁師の息子は立派な青年漁師になっていた。かつて命を削るようにして自分を育て、そのために今もなお地獄で苦しむ父親のことを忘れたことは無かった。
ある日の事、青年漁師が父の墓である土饅頭に足を向けた時、何かが土饅頭目掛けて飛んでくるのが見えた。さっと身を隠した青年漁師が見たものは、自身が砕けるのも介さぬとばかりに土饅頭に向かって体当たりを繰り返す、一羽の善知鳥であった。それは青年漁師の父に我が子を奪われた親鳥か、恨みの念を全身に込めて、善知鳥は父親の魂が眠る土饅頭に決死の体当たりを繰り返していた。
青年漁師はいつしか父親の背丈を超え、伸び切った手足は逞しかったが、先ほどの善知鳥は青年漁師よりも大きく見えた。まさに怪鳥と化し、死後の父親を苦しめている。その光景を目の当たりにした青年漁師は激しい怒りに駆られた。地獄で苦しむ父親を解放するため、自らの力であの怪鳥を仕留めると心に誓った。
青年漁師は決意を固めたものの、相手は世の理を超えた妖怪とも言うべき怪鳥、まともにやりあっては勝ち目がない。青年漁師が持っている唯一の武器、鉈を右手に好機を伺っていた。そして大きな怪鳥が土饅頭に体当たりをする直前に、
「やすたか。」
と善知鳥の鳴き声を真似た。我が子の声と聞き違えた怪鳥はその態勢を崩し、その巨体を地面に
青年漁師は善知鳥と土饅頭にそれぞれ手を合わせ、死んだ善知鳥の成仏と地獄の責め苦に苦しむ父親の解放を祈った。静寂の中、波の音だけが鎮魂の読経が如く鳴り響いていた。
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