第四譚:善知鳥 其の壱

たんと伝わる 昔の話



嘘か誠か 知らねども



昔々の 事なれば



誠の事と 聞かねばならぬ



 昔々諸国を行脚する僧侶がとある漁村の浜に向かう途中、一人の老人に行き会ったそうな。その老人は僧侶に頼みごとを始めた。聞けばその老人はこれから僧侶の向かう浜で漁師をしておったとのこと。ところが昨年突然の波にさらわれ、遠いこの地に亡骸を打ち上げられた亡霊であるとその老人は名乗った。漁師の亡霊が僧侶に頼み込んでいたのは、目的の浜に着いたら、自分の妻と子の家へ行き、自分を弔って欲しいというものであった。そう言うと漁師の亡霊は来ていた着物の片袖を残し、どこかへ消えてしまった。


 僧侶がいぶかしみながらもその浜に辿り着くと、漁師の亡霊から聞いていた家を訪ねた。すると中には漁師の妻と息子が侘しく、帰らぬ漁師の帰りを待っていた。二人に漁師の亡霊が残した着物の片袖を見せるとそれを見て涙を流す親子、生還を信じ待っていた二人に訪れたのは僧侶がもたらした訃報であったのだ。


 僧侶は泣き崩れる二人を慰め、亡き漁師の弔いを始めた。するとどうだろう、ぼんやりとではあるが漁師の亡霊がそこに姿を現したではないか。懐かしき姿にすがりつこうとする親子、しかしそれは叶わず縋る手は幻のような漁師の体をすり抜けてしまう。


 漁師の亡霊は悲しそうに親子を眺め、僧侶に弔いの礼を言った。そして自分の現状を語り始めた。


 生前漁師は善知鳥うとうと呼ばれる海鳥の子供を良く狩っていた。善知鳥は警戒心の強い鳥であったが親鳥が、

「うとう。」

と鳴くと、

「やすたか。」

と子供が返し、お互いを確かめ合っていた。それを悪用した漁師は、

「うとう。」

と親鳥の鳴き真似をして、善知鳥の子供を騙して狩っていた。


 我が子を殺された親鳥の怒りは収まることを知らず、現在も地獄の怪鳥と化した親鳥が地獄に落ちた漁師を責め苛んでいるとのこと。漁師は妻子を食わせるためとはいえ、非道な狩りを行っていたことを悔い、そしてこの責め苦がいつか終わることを願いながら、その姿を消した。静寂の中、波の音だけが親子二人の無念を慰めるように鳴り響いていたという。

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