第三譚:飴買い幽霊 其の壱


たんと伝わる 昔の話



嘘か誠か 知らねども



昔々の 事なれば



誠の事と 聞かねばならぬ



 昔々あるところに一件の飴屋があったそうな。夕暮れを過ぎて飴屋の店主田助が店の雨戸を閉め、店仕舞いを始めていた。すると閉めた雨戸を、

トントン

と叩く音がする。

 飴屋の田助が閉めた雨戸を開けると、そこには白装束の娘がぽつんと立っていた。

「飴を下さいな。」

 そう言いながら青白い顔をした娘は一文銭を田助に手渡した。その手と一文銭の冷たさにぎょっとしながらも、田助は娘が持ってきた鉢に水飴を入れてやった。娘は深々と頭を下げると、大事そうに水飴の入った鉢を抱えて帰っていった。


 翌日も娘はやってきた。薄暗い中大事そうに鉢を抱えて。田助は昨日と同じように一文銭を受け取り、娘が持ってきた鉢に水飴を入れた。


 そんな日が六日続き、七日目にも娘が黄昏時に現れた。娘はいつもの鉢だけではなく、着物を大事そうに抱えていた。

「飴を下さいな。」

 そう言うと着物を飴代とばかりに助けに差し出した。着物のことなどわからない田助にも、飴代には余りある代物であった。

 こんなものを飴代に受け取れないと渋る田助であったが、娘の懇願に負け着物を受け取り、いつものように娘の鉢に水飴を入れてやった。


 田助は着物をどうしたものかと思案しつつ、翌朝店先に着物を干していると通りすがりのお坊さんが声をかけてきた。

「この着物をどこで手に入れた?」

 お坊さんの言うことには、この着物は先日身重のまま亡くなった娘が生前愛用していた着物で、このお坊さんが弔いの際棺桶に一緒に入れたものだったとのこと。腰を抜かすほど仰天した田助はこれまでの話をお坊さんに聞かせた。


 田助とお坊さんが娘の墓に行ってみると、墓の前で赤ん坊が大声で泣いていた。娘の棺桶は開いており、中には娘の亡骸が横たわっていた。そして棺桶に入れていた着物と三途川渡し代の六文銭が無くなっていた。女の幽霊は自分の死後に生まれた赤ちゃんを水飴で養っていたのだ、そのように田助とお坊さんは理解した。


 それ以来田助の店に白装束の娘は来なくなり、赤ん坊はお坊さんに引き取られ、その後立派な高僧になったとか。

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