第二譚:青入道 其の壱

たんと伝わる 昔の話



嘘か誠か 知らねども



昔々の 事なれば



誠の事と 聞かねばならぬ



 昔々あるところにそれはそれは荒れ果てた寺があったそうな。しばらく無人で放置されていた荒れ寺に、ひとりの坊主が住み着くようになった。

 坊主は荒れ寺を一人で修繕し、その合間に畑仕事、よく働く青年であった。気立てもよく、優しく、近隣の村人からも評判が良かった。

 坊主は秋になると村人たちを寺に招き、自分が育てた野菜や穀物をふんだんにふるまった。村人たちはいつしかこの集まりを秋の楽しみするようになっていた。

 とある秋の夜更け、少年が一人寺へと向かっていた。今年も寺の坊主が近隣に声をかけ、寺では大宴会が始まっていた。少年は農具の片づけに手間取り、だいぶ遅れて寺へと足を急がせていた。

 ようやく寺の前についた少年は不思議なほどの静寂に気づいた。大宴会が行われているはずなのに、声の一つも聞こえてこない。不審に思いながらも寺の入り口にある松の根を越えようとしたとき、

「松踏むな。」

と坊主の声がした。声がする方を少年が見れば、そこには四角い連子窓れんじまどから顔を出した坊主がいた。しかしどうにも様子がおかしい、普段から血色の好い坊主の顔が真っ青で、窓にかけている手は真っ赤に染まっている。

 少年は松を避けて敷石に足をかけようとするとまた声がした。

「石踏むな。」

 少年はあまりにも青い坊主の顔となんとも不気味なその物言いに恐怖を感じ、そのまま家に逃げ帰った。

 翌日の朝宴会に参加しなかった村人たちとともに、寺を訪れた少年が目にしたものは、誰のものとも分らぬほどにめちゃめちゃに食い殺された死体の山であった。これ以来寺に寄り付くものはいなくなり、寺は昔の荒れ寺に戻った。

 その後この荒れ寺には怪談が噂され、秋の夜更けに荒れ寺に行くと、

「松踏むな。石踏むな。」

と青入道と呼ばれる妖怪が連子窓から青白い顔をのぞかせるとか。

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