第一譚:送り雀 其の参

「娘が死んだ後、娘は【送り雀】になってまでどうして村はずれで道案内をしていたのかしら?」


 出会ったばかりの女に両手を手錠で拘束されている現実に気付き、冷汗をだらだらと垂れ流す俺に女は言った。俺は叫ぼうしたがからからに乾いた喉がぴったりと張り付いたように開かず、声を出すことすらままならない。女が続けた。


「村人や旅人たちを夜道から守るため?」


 そう言いながら女は明らかに似合っていない厚化粧をクレンジングシートで拭い始めた。逃げることすらままならず、がたがたと震える俺に女はメイクを落とした顔を近づけながら言った。


「【送り雀】は待っていたのよ。復讐すべき相手が再び夜道に現れるのを。」


 そう言い放った女の顔は確かに見覚えがあった。そう、間違いない。以前俺が無理やり酔わせてこの部屋に連れ込み、無理やりに凌辱りょうじょくした女の顔だ。


「・・・・・・、許してくれ。」


 恐怖と渇きを克服してようやく俺はこの言葉を絞り出した。すると女は笑って言った。


「わたしもあの時言ったよね。おんなじ言葉を、何回も。」


 そう言った女の右手には鈍く光る包丁が握られていた。

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