第一譚:送り雀 其の弐

「不思議なお話でしょう。【送り雀】ってお話よ。」


 いまだはっきりしない俺の脳内に直接語りかけてくるような昔語り、この声には聞き覚えがあった。そう、昨夜一人酒場でくだをまいていた俺に話しかけてきたあの女だ。まだ幼さの残る風貌を大人びたメイクで塗り固め、妖艶に指を絡めてきた女。

 今夜は無理に酒を飲ませたり、手荒な真似をしなくても女が手に入る。昨夜の俺は降って湧いたような幸運に身震いしていた。


 女を連れて酒場を離れ、俺の家へといざない、女は従順についてきた。いやまるで俺の家を知っているかのように、俺を案内するかのように、その女は俺を導いた。


 俺の家に着いた頃俺は猛烈な眠気を感じた。先ほどまでの欲情に勝るほどの睡魔に襲われた俺は不覚にも女に手を出すことも無く、自分のベッドに横たわりそのまま意識を失った。


 ようやく覚醒したものの、とにもかくにも頭痛がひどい。今にも割れそうな頭の中に夢うつつに聞こえてきた、あの【送り雀】の話は確かにこの女の声だった。


 俺は重い瞼をこじ開けようと、瞼をこすろうとするが右腕が動かない。頭上に上げた両腕をどうにも降ろすことが出来ない。ベッドの上でもがきながらどうにか瞼を開けて気づいた。俺の両手が手錠でベッド柵に固定されていることに。

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