「冒険家の日」(8月30日)


「はい、どうもー。シンタマカブリでーす」

「よろしくお願いしまーす。拍手ありがとうございまーす。いやあ、こんなに歓迎されるとね、歌でも歌っちゃおうかなって気になっちゃうね」

「なるな、なるな。本当にやめてくれよ。劇場からクレームくるんだから」


「お前は本当に保守的だよな」

「なんだよ、急に」


「いっつもルールを守って、他人の顔色をうかがって」

「良いことじゃねえか。ルールを守るのも、他人の迷惑にならないようにするのも」


「もうちょっと遊び心っていうか、冒険心ってものが持てないものかなあって」

「三十を越えたオッサン二人で、なにを冒険しようっていうんだよ」


「バカ野郎! 冒険したいって心に年齢なんか関係あるか!」

「なんか良いこと言ってる風だけど、お前が言ってるのは『いい歳したオッサンが、ルール破って好き勝手しようとしてる』っていう誰も笑ってくれないヤツだからな」


「僕だって冒険したいよー。冒険させてくれよー。僕だってお店の冷蔵庫に入ったり、ピザ生地を顔に張り付けたり、線路の上を歩いてみたりしたいんだよー」

「バカッターじゃねえか。絶対やめろよ。冒険のゴールが地獄になっちまうぞ」


「じゃあ、今からでもスケートボード始めてみるか」

「遅い、遅い。遅すぎる。真夏の大冒険は13歳じゃないと。三十オーバーのオッサンはお呼びでないの」


「バカ野郎! 新しいことを始めるのに年齢なんか関係あるか!」

「それはそのとおりだし、いい言葉だとは思うけど! 何歳からでもオリンピックを目指せるって意味じゃないから。そこは気をつけてっ」


「なんだよ。全然冒険させてくれないじゃん」

「もっと小さめの冒険にしてくれよ」


「なんだよ。小さめの冒険って」

「いつもは通らない道を歩いてみる、とか」


「うわっ」

「食べたことのない食材を食べてみる、とか」


「ひえっ」

「ふだん読まないジャンルの本を読んでみる、とか」


「きゃあああ!」

「なんだよ、さっきから! 人が真剣にアドバイスしてるってのに」


「保守的すぎて怖い!」

「怖いって」


「発想がどれも地味すぎる!」

「悪かったな、地味な趣味ばっかりで」


「お前と結婚したら、そこそこ普通の幸せを得られる代わりに、死ぬほどつまらない毎日がどこまでも続くんだろうなあ」

「それはタダの悪口だからな!!」


「いや、ゴメン。お前に聞いた僕が悪かったよ。明らかな人選ミスだった。任命責任は僕にあります。ごめんなさい」

「それは大臣が不祥事起こしたときに総理大臣が言うやつだから。っていうか、わざわざ新しい冒険なんかしなくても、俺たちはずっと冒険してるじゃねえか」


「え? どういうこと?」

「大して売れてもいないのに、三十を越えても芸能界にしがみついて漫才を続けてるって、すげえ冒険家だと思うぜ」


「(鼻を詰まんで右手を振る)」

「くっせえぇぇぇ、じゃねえんだよ。クソが!」


「(ニヤニヤしながら)僕たちの冒険のゴールはどこにあるのかな?」

「ゴールを地獄にしてやるぞ、この野郎。いい加減にしろ」




      【了】




🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤


8月30日は「冒険家の日」です!!!!!!!


1965年(昭和40年)に同志社大学の南米アンデス・アマゾン遠征隊がアマゾン川の源流から130kmを世界で初めてボートで下った日なんですって。


完結まであと1本! ついに次回フィナーレです!!

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