「エキストラ」(8月28日)


「はい、どうもー。シンタマカブリでーす」

「よろしくお願いしまーす。拍手ありがとうございまーす。僕が昨日、体調を崩しちゃいましてね。代わりに友達に舞台に出てもらったんですけども」

「そういうことは先に言えよ。気づかずに最後まで漫才やっちゃっただろ」


「まさか気づかないとは思わないし」

「それはそう! 俺も自分で自分が信じられない」


「僕もお前のことは絶対に信じない」

「そこまで言われると腹立つな。まあいいけど。今日はさ、ちょっと夢の話をしようと思ってんのよ」


「お前が昨日どんな夢を見たとか、誰も興味ないって」

「そっちじゃない、そっちじゃない。そっちの夢じゃなくて、未来の話よ」


「ああ。そっちか」

「いやね。俺さ、実はテレビCMに出たいと思ってて」


「お茶の間の皆さんの目を潰す気か?」

「そこまで言われるほど!? 俺がテレビに映るのはバルスと同じなの?」


「まあ、チョイ役くらいならツテがないこともないんだけど」

「マジで!? ちょっと紹介してよ」


「紹介するくらいだったらいいけど、どんなCMに出たいのさ」

「あー。そうだなあ。ちょっと真面目なやつとかいいよね」


「じゃあ、弁護士事務所のCMとかどう?」

「えっ!? そんなツテあるの? いいじゃん。なんかカッコいいし」


「『昔5万円ほどのキャッシングを繰り返しただけなんだけどね』って言うだけのチョイ役なんだけど」

「過払い金のCMのおじいちゃんの枠!? いや、文句があるわけじゃないんだけど。CM一発目が債務者ってちょっと印象悪くない?」


「これ以上悪くならないから平気だって」

「お前の中で俺の印象どうなってんの?」


「じゃあ、もっとコミカルなやつは?」

「まあ、俺ら芸人はそういうのが妥当だよな」


「でもお前、ちょっと音痴だからなあ」

「歌う系のCMなの?」


「『むっししーむっししーむしーむしー♪』って、ちゃんと歌えるか?」

「ムシューダのCMじゃん! いや、スゴいけど」


「ちょっと歌ってみてよ」

「もちろん、もちろん。『むっししーむっししーむしーむしー♪』」


「お茶の間の皆さんの耳を腐らせる気か?」

「なんでだよ! そんな悪くなかっただろ」


「なんかキモい。生理的に無理。耳が壊死する」

「そこまで言う!? さすがの俺も傷つくって」


「あ、でもあのCM、歌わない枠もあるぞ」

「いや、でもあの枠は女優さんが入るところでしょ」


「そっちなわけねえだろ。チョイ役だって言ってんだから。その横だよ、横」

「その横って、クマじゃねえか」


「ムッシュ熊雄ね」

「アイツ、そんなジェントルな名前なんだ。知らんかった」


「ムッシュ熊雄の中の人なら推せる」

「あんな全身着ぐるみの水色クマなんて、中身が誰でも一緒じゃねえか」


「そのまま出演するのと、ほとんど変わらないから大丈夫だって」

「誰が水色のクマだよ。ふざけんな!」


「ごめん、ごめん。言い過ぎた」

「ホントだよ。このまま今日でコンビ解散かと思ったぞ」


「さすがにムッシュ熊雄の方がカワイイよな」

「やっぱ解散だ、解散!」


「「ありがとうございましたー」」




      【了】




🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤


8月28日は「テレビCMの日」です。


1953年8月28日、日本で初めてテレビCMが放送されました。

記念すべき日本初のテレビCMはフィルムが裏返しで音も不明瞭だったため、約3秒ほどで強制停止されてしまったそうです。なんという放送事故。


完結まで残り3本。もう少しだけ続くんじゃよ

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