「チンチン電車の日」(8月22日)


「はい、どうもー。シンタマカブリでーす」

「よろしくお願いしまーす。拍手ありがとうございまーす。うっわ。めっちゃ盛り上がってるじゃん。二階席のみんなもありがとーねー!!」

「ないないない。ここの会場に二階席なんかない。俺らはそんな立派な場所で漫才できる身分じゃない。……わきまえろ!」


「ないない尽くしで悲しいなあ、悲しいなあ」

「俺らにできることは目の前の漫才を頑張ることだけだから」


「そうだな。やるか」

「よし、やろう。……俺さ、この前はじめてチンチン電車に乗ったんだけど」


「えっ!? おまえ、ちょっとなに急に」

「だからチンチン電車にはじめて乗って」


「チンチンって、そんな卑猥な電車があるか!」

「あるんだよ! あと、その百年前からこすられてるボケも勘弁してくれ」


「僕はお前の書いた台本どおりに言ってるだけだし」

「ここのセリフは、お前がどうしても足したいってゴネたところだけどな」


「そんでチンチン電車がどうしたって?」

「うわっ。なにごとも無かったかのような華麗な切り替え。いやね、この前乗ったチンチン電車がチンチン鳴らなかったのよ」


「チンチン電車なのに?」

「そう。チンチン電車なのに。故障だったのかなあ」


「ノーチンチン?」

「うん。まあ(小首を傾げながら)」


「あー。それじゃ、お前が乗ったのはチンチン電車じゃないなあ」

「どういうことだよ」


「だからさあ。チンチンがなくなったチンチン電車はもはやチンチン電車とは認められないから。ノーチンチンはただの路面電車なんだよ」

「あーもうっ! チンチンチンチンうるせぇなあ! さっきから気になってたけど、なんだよノーチンチンって」


「ノンチンチンの方が良かったかな」

「英語かフランス語か、って話じゃないから」


「プーチンチンは?」

「中国語のはずなのに、ロシアの大統領みたいになったな」


「じゃあナインチンチン?」

「なんでいきなり9個に増えたんだよ」


「違う、違う。ドイツ語バージョンにしただけ」

「知らねえよ。ドイツ語なんか。習ったことねえし。ツッコミが難しいボケを入れてくれるな」


「僕はお前の書いた台本どおりに言ってるだけだし」

「ちなみに、さっきのボケは俺のお気に入りのヤツなんで、もっともっと笑っていいですよー」


「なんだよ。話が違うじゃねえか」

「なにがだよ」


「お前、言ってただろ? お笑いライブに来る客なんて『ちんちん』って言っておけばみんなゲラゲラ笑うから大丈夫だ、って」

「全く身に覚えがないんだけど!?」


「あ、ごめん。これ言ってたの、隣に住んでる小学生だった」

「あっぶねえ。お前の勘違いで俺のSNSは燃え上がる直前までいってたぞ」


「そのままにしておけば、ネットニュースに載ったんじゃね?」

「こんなので載っても全然嬉しくないから。ちゃんと賞レース獲ってから載ろうぜ」


「わかった。じゃあせっかくの機会だから聞いておきたいんだけど」

「うん。なに?」


「チンチン電車ってなに?」

「知らねえでここまで喋ってたのかよ。いい加減にしろ」




      【了】




🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤


8月22日は「ちんちん電車の日」です。ちんちーん。

国内ではじめてチンチン電車が走ったのが、1903年のこの日なんですって。

ちなみに日本初の走行は、東京都の新橋から品川間だったそうですー。


さあ。残りは9本!!

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