「歩行者用信号機」(8月20日)


「はい、どうもー。シンタマカブリでーす」

「よろしくお願いしまーす。拍手ありがとうございまーす。いやあ、今日はべっぴんさんが多いですねえ。右からべっぴんさん、ぺっぴんさん、ひとつ――」

「ピーッ! ピピピピッ! ピーーーッ!!(手でバッテンを作る)」


「なになに? 古き良き定番のツカミをやってるとこだからジャマしないでよ」

「アウトー! そのツカミはもう禁止リストに入ってるだから、やっちゃダメなの。お客さんの容姿をネタにするのは普通にセクハラだし、ひとつ飛ばすとか絶対やっちゃダメなやつだから」


「なんとも世知辛い世の中になったなあ」

「そこはちゃんと世間様と一緒にアップデートしていこ」


「たまにさ、すっごい危ない道路とかあるじゃん?」

「あー、車の通りが多いとか、そういうこと?」


「それもそうなんだけど、見通しが悪くて事故が多いところ」

「はいはい。」


「うちの実家の近くにも、そういう場所があってさ。ちょいちょい『目撃者求む!』とか書かれた看板が立つのよ」

「あー、怖いね。事故が起こっていて、しかも証拠が残ってないってことだもんね」


「だからさ、そこに信号機があったらみんな安心するんじゃないかなって」

「それは安心するだろうね。でも、信号機もタダじゃないから、なかなか立てて貰えないんでしょ?」


「そうなのよ。お役所でも優先順位? みたいなのがあるらしくて。もうさあ。僕がお金出すから立てさせてくれないかなって」

「あー、気持ちはわかるけどね」


「そしたらさ、僕の好みの信号機を立てられるじゃん」

「ん? 僕の好みの信号機?」


「そう。マンホールは地域ごとに色んなデザインがあって面白いでしょ? 信号機だって、もっと遊び心があってもいいと思うわけ」

「あー、それは面白いね。信号機なんて、どれも似たり寄ったりだし」


「例えばね。ドイツにはエルビス・プレスリーが歌っているシルエットを歩行者用の信号機にデザインしている町もあるわけよ。僕の実家は世田谷の外れの方なんだけど、尾崎豊のシルエットを使った歩行者用信号機とか面白いかなって」

「そっか。尾崎豊って世田谷の出身地なんだっけ」


「そんで、歩行者用信号機が青になると尾崎豊の名曲が流れ出すわけよ。ふふふーふふふふーふふふふーふふー♪」

「ぬすんーだバイクーではしりーだすー♪ って、ダメダメダメ。交通規則を守るための信号機で盗難車を乗り回す曲はさすがにダメだって。速攻でSNSにUPされて炎上するヤツ」


「なんだよ。お堅いなあ。たかが歌じゃん」

「そこはちゃんと世間様と一緒にアップデートしていこ」


「じゃあ、流すのはI LOVE YOUでいいか」

「みんな、すごいゆっくり横断歩道を渡っちゃいそうだけど、大丈夫?」


「じゃあ、どの尾崎だったらいいんだよ!?」

「むしろ、なんでそんなに尾崎にこだわるんだよ。尾崎ってどちらかというとルールに縛られたくない側の人間だよ? 世田谷だったら、ほかにもアーティストいっぱいいるじゃん」


「いない」

「いや、いるって。ほら、水木一郎とか、神田沙也加とか」


「尾崎以外に真のアーティストなどいない」

「うわ、ヤバッ」


「尾崎じゃなきゃヤダ!! 僕がお金出すんだから、僕の考えた最強の信号機にさせてくれよ!」

「もう子供じゃないんだから。みんなの安心はどこにいったのよ」


「道路を渡るときに尾崎に見守られてる信号機とか、安心しかないだろ」

「お前はそうかもしれんけど。いまの若い人たち、もう尾崎とか聞いたことないんじゃない?」


「だったら信号機から常に尾崎の曲を流して、そばに尾崎の写真を飾って、尾崎が好きだったビールを置いて、目立つように花も飾って、みんなが尾崎を忘れられないようにしてやる!」

「それじゃ、尾崎の事故現場にしか見えねえよ。いい加減にしろ」




      【了】




🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤


8月20日は「交通信号設置記念日」です。

日本で初めて3色灯の自動信号機が設置された日だそうです。


さて、残りは11本。ついに折り返しました!!

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