「デート」(8月19日)


「はい、どうもー。シンタマカブリでーす」

「よろしくお願いしまーす。拍手ありがとうございまーす。僕が寝るときに目を閉じる方で」

「それじゃ俺が寝るときも目を開けてる方になっちゃうだろ」


「あー、まあ寝てる本人はわからないから仕方ないよな」

「え!? もしかして俺って、マジで寝てるときに目を開けてんの!?」


「(肩をポンポンと叩いて)そんなことより、漫才をはじめようぜ」

「そんなことが気になって漫才どころじゃないんだけど!? 終わったら詳しく聞かせてくれよ。頼むから」


「実は僕さ。俳句、作ってみたんだけど聞いてくれる?」

「俳句!? それ聞くの、本当に俺でいいの? 夏井先生とかの方がいいんじゃない?」


「そりゃ、夏井先生に見てもらえれば最高なんだけどさ。僕らじゃプレバトに呼んで貰えないでしょ」

「それはそう。残念ながら、そこまでの数字は持ってないからね。でも俺、本当に俳句とかわかんねえよ」


「とりあえず聞いて感想をもらえればいいから」

「そう? じゃあ、聞かせてよ」


「えー、こほん。いくよ。『滑るなら 殺してしまえ 右隣』」

「待って、待って、待って。え? これは俺へのクレーム? 舞台で右隣に立っている相方こと、俺に対する殺意をともなうクレーム?」


「あ、ごめん。間違った。こっちは『お笑い芸人川柳』に出す予定のやつだった」

「そっか、そっか。出す予定ではあるんだ」


「では、仕切り直して。『夏の夜 君と見たいな 流星群』、どうかな?」

「あー、いいんじゃない? 夏井先生ならメチャメチャ修正してくるかもしれんけど、俺は良いと思うよ」


「そう? 良かったあ。でも実は、他にも候補があってさ。そっちも聞いてくれる?」

「候補? まあいいよ。聞かせて」


「じゃあ、いくよ。『夏祭り 浴衣の君と 歩きたい』」

「なるほどね。いいんじゃない?」


「まだあるのよ」

「まだあんの? まあいいよ。聞かせて」


「いくよ。『ダイビング 僕たちだけの 水族館』、さすがに字余りは攻めすぎかな」

「うんうんうん。ちょーっと待って。間違ってたらごめんね? もしかしてなんだけど、もしかして誰かをデートに誘おうとしてる?」


「ちょっ!? えっ!? なんでわかったんだよ」

「いや、わかるよ。さっきから全部、俳句がデートを求めてるもん。一個目は流星群でしょ、二個目は夏祭り。三個目なんかダイビングに誘っちゃってるし。字余りとかの前に、初デートでダイビングは攻めすぎだって」


「ダイビングはダメ? 一緒に石垣島に行きたかったんだけどなあ」

「お前、初デートで石垣島に誘うつもりだったの!? 気持ちわるっ」


「おいっ。気持ち悪いってなんだよ。石垣島に失礼だろ」

「違う違う。初デートで宿泊をともなう旅行に誘うお前の下心が気持ち悪いの。石垣島はなにも悪くない」


「あっはっはっは。心配しすぎだって。さすがの僕も初デートで泊まりなんて計画しないよ。日帰りに決まってんじゃん」

「いやいやいや、しんどいって。初デートが約2,000キロメートルを日帰りで往復する弾丸旅行はしんどいって」


「そうなの? 僕は全然平気なんだけど」

「もう少し、相手の気持ちを考える心を持って」


「そっかあ。でもどうしよう。もう飛行機のチケット取っちゃったんだよね」

「デートのOKもらう前にチケット取っちゃったの? 見切り発車がすぎるだろ」


「ダメ元で誘ってみるか」

「まあ、そうね。もしかしたら、初デートが弾丸旅行OKっていう変わったタイプの女性である可能性もあるしね。ちなみに、お相手はどんな方なの?」


「ん? 俳句の会で知り合った人だよ」

「…………失礼かもしれないけど、ご年齢は?」


「たしか、今年で喜寿だったかな」

「さすがに77歳に日帰りはやめてさしあげろ」


「「ありがとうございましたー」」




      【了】




🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤


8月19日は「俳句の日」です。

理由は……言わなくてもわかりますよね(笑)


さあ、残りは12本です!

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