「C6H10O5」(8月18日)

「はい、どうもー。シンタマカブリでーす」

「よろしくお願いしまーす。拍手ありがとうございまーす。こう見えて実は、僕ら結構いっておりまして。僕が63で、彼なんかもう72なんですよ」

「なんで突然体重を公表したのかな? ちょっと恥ずかしいんだけど」


「僕らほとんど身長いっしょなのに、なんでお前はそんなにふと、ふくらんだの?」

「言い直してくれたみたいだけど、オブラートが薄すぎて俺は今とてもビックリしているよ」


「まあ、僕が思うに食事に問題があると思うのよ」

「と、いうと?」


「お前とご飯行ってるとき、いっつも思ってたことがあるのよ」

「なんだよ、言ってみろよ」


「明らかに、炭素と水素と酸素の化合物を摂取しすぎ」

「………………あ、炭水化物のことか。急に化学の授業が始まったのかと思った」


「特にお前が好きなデンプン。あれが良くない。焼肉にいったら必ずデンプンを大盛りで頼むし、ラーメンを食ったらスープにデンプンを投入するし、お酒を飲んだ帰りには締めで絶対デンプンを握ったやつ買って帰るじゃん」

「そのお米のことデンプンって呼ぶの止めてくれる!? その『デンプンを握ったやつ』ってお握りのことだよね?」


「しかもデンプンを発酵させた飲み物まで頼むじゃん」

「日本酒と言え、日本酒と。確かによく飲んでるけど」


「とにかくお前は、C6H10O5の摂取量を控えないとダメだよ」

「化学式にしろって意味じゃねえから。あとお米の量を減らすのはムリ。そんなことするくらいなら死んだ方がマシ」


「じゃあ、せめて銀シャリに銅シャリを混ぜようぜ」

「白米を銀シャリっていうのはまだしも、玄米を銅シャリって言ってんのはお前だけだと思うよ」


「あ、もしかして金シャリ派だった?」

「どっち派でもねえよ。玄米は白米より上か下か、みたいなこだわりは特にないから。そもそも、俺あんまり玄米が好きじゃないんだよね」


「お前もわがままがヤツだなあ。あとはもうグルコマンナンを混ぜるくらいしか手は残ってないぞ」

「グルコマンナン?」


「え? 知らない? グルコマンナン」

「知らない。なにそれ?」


「知らなくても、歌を聞いたらピンとくるって」

「歌? なにそれ、どういうこと?」


「いくぞ。…………マンナン♪」

「…………(気づいて)ライフの♪」


「「こんにゃくば・た・け♪」」


「な?」

「ドヤ顔がムカつくなあ。ピンときたのはいいけど、コンニャクならコンニャクって初めから言ってくれよ」


「お米に混ぜて炊くだけで、お米と見分けがつかなくなる米粒みたいなグルコマンナンがあるから、今度買ってやるよ」

「えー、いいよ。どうせ使わないし。っていうか、うちに炊飯器ないし」


「!?」

「なんだよ?」


「炊飯器を持たず、お米を炊くこともできないのに、どうしてそんな今にも破裂しそうな風船のように、パンパンにふくらむことができるのか」

「お、おう。さっきまでかろうじて存在していた、うすうすのオブラートはどこに置いてきたんだ?」


「オブラートも主原料はC6H10O5だから控えた方がいいかなって」

「別に口に入れるわけじゃないんだからいいだろ」


「そっか。入れるのは耳だもんな」

「うるせえよ、バカ」


「C6H10O5を減らすのが無理なら、せめてC2H5OHを減らそうぜ」

「だから化学式で言われてもわかんねえんだよ。なんなんだよ、それは」


「お酒」

「それだけは死んでも無理。もういいよ」




      【了】




🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤


8月18日は「米の日」です。

なぜかというと、米を分解すると八十八に見えるから。

米寿と同じ理由ですね。


さて、残りは13本。そろそろ折り返しが見えてきましたよ。

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