「終戦記念日」(8月15日)
「はい、どうもー。シンタマカブリでーす」
「よろしくお願いしまーす。拍手ありがとうございまーす。今日は一段と客席がスカスカですねえ。転売屋が買い占めちゃったのかな?」
「これが俺たちの実力だよ。転売屋のリサーチに引っ掛かってもいねえから安心しろ。って、悲しいこと言わせんなよ」
「ねえ、今日は何の日か知ってる?」
「ああ、今日ね。8月15日、さすがに知ってますよ。終戦記念日でしょ?」
「おおっ! 知ってるんだ!? うちの終戦記念日」
「ん? うちの?」
「そう、僕んち。進藤家の終戦記念日」
「ごめん。そっちの終戦記念日は知らないわ」
「えー!? 何と勘違いしてんだよ。やめてくれよ、紛らわしい」
「完全にこっちのセリフだよ、紛らわしい」
「じゃあ、ちょっと進藤家の戦争の話していい?」
「ここまできたら、するしかねえだろ」
「2023年8月15日、進藤家の戦争は終わりを迎えた」
「去年できたばっかりの記念日だ」
「始まりは2年前」
「戦いの火ぶたが切られたわけね」
「朝からパチ屋に並びに行って、日が変わる頃まで家に帰ってこないママ」
「まるで昭和のオヤジみたいなかーちゃんだな」
「転職初日に大寝坊をかまして、なんとなく会社に行きづらくなった結果、退職代行を利用して会社を辞め、部屋に引きこもるようになったパパ」
「とーちゃんのメンタル弱すぎるだろ。つか、おまえの家の収入どうなってんの?」
「ママがパチンコとスロットで稼いでて」
「お前のかーちゃんパチプロなの!?」
「パパがデイトレードで稼いでる」
「とーちゃん引きこもったけど、ちゃんと仕事はやってたんだ」
「ある夜、とつぜんリビングからママが怒ってる声が聞こえたんだ」
「えっ、なになに?」
「『あたしのプリンがない!! パパったら、またあたしの勝手に食べたでしょ!?』って」
「しょーもなっ!」
「そっからパパとママが、プリンを食べた、食べてないで大げんかよ」
「考えうる限り、トップクラスにどうでもいい理由だ」
「それからパパとママが全く口を聞かなくなって」
「うわっ、プリン1つでそこまでやるか」
「目の前に相手がいても僕に全部言うのよ。
『ちょっとパパに牛乳買ってきてって伝えてー』
『いま忙しいってママに伝えといてー』
みたいな感じで」
「しかも、やってること中学生だ。お前がいないときはどうしてんのよ」
「お互いの部屋に要件を書いたメモを貼ってるみたい」
「もはや文通じゃねえか。一周まわって仲良しだろ」
「いやいや。そんな穏やかなもんじゃないよ。パパは料理作ってもママの分だけお箸とお皿を用意してなかったり、ママはコンビニスイーツを買ってくるときにパパの分だけ買ってこなかったり、そりゃあもうヒドい嫌がらせの応酬だったんだから」
「嫁姑問題でたまに見かけるヤツだ。夫婦間でも発生するんだな」
「そんなピリピリした空気の中で、両親の板挟みになってる僕の気持ちを考えてよ」
「まあちょっと、リアルに嫌な感じ。でも1年で終戦したんだろ?」
「そうそう。そこはねえ、僕が一肌脱ぎました」
「おっ。『子はかすがい』ってやつだね。どうやったの?」
「まずは二人にビシッと言ってやったんだ。『もうケンカはやめてくれ!』って」
「いいね、いいね。それから?」
「『去年、ママのプリンを食べたのは僕なんだ!!』って、ハッキリ言ってやった!」
「…………全部お前のせいじゃねえかっ! よく丸1年も引っ張ったな」
「だって、ママが怒ると怖いんだもん」
「かわいこぶんな」
「実は今朝、ママのアイスを勝手に食べちゃったんだけど」
「全然反省してねえじゃねえか」
「怒られるの怖いから、お前も一緒に謝ってくんない?」
「絶対イヤだわ。いいかげんにしろ」
【了】
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8月15日は皆さまご存じ「終戦記念日」です。
なんとか暗い話にならないようにネタを考えてみました。
残り16本です!
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