「東京特許許可局」(8月14日)


「はい、どうもー。シンタマカブリでーす」

「よろしくお願いしまーす。拍手ありがとうございまーす。僕がシンタマカブリで、隣にいるのが……どなたでしたっけ?」

「俺もシンタマカブリだし、お前の相方だろうがよっ!」


「はい。というわけで、オーソドックスな掴みから入りましたけどね」

「掴みでオーソドックスとか言うなよ」


「ところでお前、東京特許許可局って知ってる?」

「あー、早口言葉で有名なやつでしょ? なんだっけ。東京特許許可局長、今日急遽、休暇許可拒否みたいな」


「その東京特許許可局って、実は存在しないって知ってた?」

「あー、はいはい。実在するのは特許庁であって東京特許許可局は実在しないってやつですね」


「あんなにみんな一生懸命、噛まないように練習している官庁が、実は存在しないってヤバくない?」

「ヤバくない。ヤバくない。あの東京特許許可局っていうのは、早口言葉のために作られたってだけのことでしょ」


「いやいや、ちゃんと考えみて。東京特許許可局がないってことは、東京特許許可局長もいないってことじゃん」

「まあまあまあ、そりゃそうよ。実在するのは特許庁長官だからね」


「ということは、今日急遽休暇許可拒否した最低のパワハラ上司は存在しなかったってことじゃん」

「ん? まあ、もともと作り話だからね」


「良かったああああぁぁぁぁ」

「なになに? どゆこと!?」


「パワハラ上司に今日急遽、休暇許可を拒否されたかわいそうな人はいないし、このパワハラが告発されて週刊誌に載ることもないし、東京特許許可局による記者会見が開かれることもないってことじゃん! 良かったああああぁぁぁぁ」

「わかんない、わかんない。なにをそんなに喜んでんのか、わかんない。お前の感受性の豊かさについていけない」


「記者会見を見て『お父さんが謝ってる』ってなる東京特許許可局長の子どもはいないし、それが原因でイジメられるようなこともないし、イジメを苦にして自殺してしまう未来もないんだよ! 良かったああああぁぁぁぁ」

「架空の物語に出てくる男の、子どものことまで心配しながら生きていくの大変じゃない?」


「自殺した子どものニュースを見て、鬱々とした気持ちのまま劇場に向かっていたお前が、同じく鬱々とした気持ちで仕事中のトラックの運転手の不注意で轢かれてしまうこともないんだよ! 良かったなああああぁぁぁぁ」

「俺、東京特許許可局が存在してたら事故で死んじゃう運命なの?」


「つまり相方を失った僕が、失意のあまり芸人を辞めることになったりしないし」

「お前はそんなに繊細じゃねえだろ。たぶん3ヶ月後には新しいコンビ組んで劇場に出てるよ」


「漫才派がシンタマカブリという大きすぎる柱を失って低迷することもないし」

「俺たちにそんな影響力はない。断じてない。自己評価が天より高い」


「漫才派が力を失ったところを、ここぞとばかりにコント派が攻め込んできて、血で血を洗う闘争が起こることもないし」

「別に漫才とコントはどっちか片方を選ぶシステムとかじゃないし、物理攻撃で戦うこともないから」


「結果的にどちらも滅びて、このエンタメ業界から笑いという概念が失われ、バラエティというジャンルが消滅してしまうこともないし」

「話が壮大過ぎるだろ。漫才とコントにそこまでの影響力はねえよ。たぶん」


「笑いが奪われ、笑顔が失われた世界が、どんどんその光を失っていき、ついには世界が消滅してしまう未来も訪れないってことなんだよ。ホントに良かったなああああぁぁぁぁ」

「良かったけども! 東京特許許可局の有る無しで世界が変わりすぎだろ。意味わかんねえよ」


「あっ!」

「なになに。今度はどうしたの?」


「僕は大変なことに気づいてしまった」

「なんだよ。世界の真実に気づいた陰謀論者みたいな顔しやがって」


「これって、特許庁長官がパワハラしても同じだ」

「全部台無しだよ。いい加減にしろ」




      【了】




🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤


8月14日は「専売特許の日」です。

なんだそれ? と思ったら日本で最初に特許が付与された日とのこと。


残り17本。まだまだ始まったばかりです!

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