「ポスティング」(8月12日)
「はい、どうもー。シンタマカブリでーす」
「よろしくお願いしまーす。拍手ありがとうございまーす。えー、僕がシンタマで、隣にいるのがカブリです」
「待って待って。ウソです、ウソです。そんな変な芸名つけた覚えありません」
「なあ。お前、ポスティングって知ってる?」
「え? このまま行くの? ウソの名前教えたまま続行するの?」
「いいから。ポスティングって知ってる?」
「いや、知ってるよ。ポストにチラシとか入れてくやつ。あれウザいよな。ゴミ箱に捨てる側の気持ちになってみろって思う」
「そりゃ、その人たちも仕事なわけだから」
「だいたい、うちのアパートなんか壁に『ポスティング禁止』ってでっかく書いてあるのに、どうしてわざわざポスティングしにくるかな」
「そこまで言わんくても」
「だいたい捨てられるのわかっててポストに突っ込むことに意味あるか? SDGs的にどうなのかとも思うよね」
「僕はそれを来週からバイトでやるのよ」
「マジか」
「嫌われてるのも知ってるけど、お金のためにはやらなければならない」
「まあまあ、そういうこともあるよな」
「なぜなら、今、僕は金欠だから」
「そりゃ、四国であんだけ散財したら金欠にもなるよ」
「そういうわけだから、ちょっとポスティングの練習させてよ」
「俺はポスティングしたことないけど、まあちょっとやってみてよ」
「(扉を勢いよく開ける動作)たのもー!!」
「ダメダメダメ、そんな大声出しちゃ。ポスティングは息を潜めてササッと忍者のように仕事をしなきゃ」
「ああ、そっか。じゃあもう一回(静かに扉をあけて、抜き足差し足、キョロキョロと周りを見ながら)」
「怪しい、怪しい、怪しい。そんな入り方するやつコントに出てくる泥棒くらいだから。もうちょっと自然に『ここの住人です』みたいな顔して入って」
「ああ、なるほどね。(普通に入ってきてポスティングをはじめる)」
「そうそう。その感じ。じゃあ、ここで住人が通りかかります。はい、どうする?」
「あ、どうもー。お出かけですか? 今日はいい天気ですもんねえ。あ、僕ですか?僕はちょっとポスティングでお邪魔させて頂いててえ」
「ストップ、ストップ、ストップ。え? めっちゃ喋るじゃん。ポスティングは自分から声なんかかけなくていいの。黙々と職人さんみたいに仕事だけしてればいいんだよ」
「あ、そうか。ゴメンゴメン、つい僕の中にいる陽キャが顔を出してしまった」
「お前が陽キャなところ見たことないけどな。はい、じゃあ続けて」
「(ポスティングを続ける)」
「じゃあ、ここで管理人さんが登場です。あのね、お兄さん。ここはポスティング禁止だから。出てって、出てって」
「はあ? それってあなたの感想ですよね? 僕がここでポスティングしちゃいけないって法律とかあるんですか? 困るんですよねえ、正義面して注意してくる人って」
「やめてやめてやめて。なんで小学生みたいな無理スジで論破しにいこうとしてんの? 住居侵入罪で捕まっちゃうよ? 今のお前に1ミリも正当性ないからね。そういうときは『すみませんでしたー』って出ていくしかないんだよ」
「あ、そうか。ゴメンゴメン、つい僕の中にいるヒロユキ好きの小学生が顔を出してしまった」
「残念だけど、心にヒロユキ好きの小学生を飼ってるヤツには、ポスティングは向いてないんじゃないかと思う」
「僕もそんな気がしてきた。実はもう一個、バイトのアテがあるんだけど」
「ああ、それは良かった。どんなバイト?」
「なんか事情があって銀行に行けない人の代わりに、お金を下ろしてくるだけの簡単な仕事らしいんだけど、めっちゃバイト代高いんだよ」
「お前、そのバイトだけは絶対やんなよ?」
「「どうも、ありがとうございましたー」」
【了】
🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤
8月12日は「配布の日」なんですって。
ポスティングやサンプリングを行う企業の団体が制定したそうです。
さあ、残り19本。どんどんいきますよ。
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