「山」(8月11日)
「はい、どうもー。シンタマカブリでーす」
「よろしくお願いしまーす。拍手ありがとうございまーす。いやぁ、毎日暑いですねえ。ほんとあっつい! 暑すぎる! 殺す気か!!」
「いや、確かに暑いですけどね。え? そんなに怒るとこ?」
「こんな暑い日に漫才なんかやってられねえよ」
「そんなこと言わずに。な、やろうぜ漫才」
「いいや、僕はやらない。僕は山に行く」
「唐突! え? なんで山なの? 海にしようよ」
「お前の意見は聞いてない。お前はこの炎天下で漫才でもやってろ」
「こっわ」
「とにかく僕は山に行くんだ。頼む! 行かせてくれ!」
「まあ、お前がそこまで言うなら仕方ない。行って来いよ、山」
「いいの!? よし、じゃあちょっと行ってくるわ!!」
「待て待て待て待て。お前まさか、その格好で行く気じゃないだろうな?」
「え? ダメ?」
「山ナメんなああああああ!!!」
「こっわ」
「山に行くときは相応しい格好ってもんがあんだよ」
「あー、そういうことね。大丈夫、大丈夫。ちゃんと着替えは用意してるから」
「本当かよ。じゃあちょっと見せてみろよ」
「お前はホントに心配症だな。ほら、すげ笠だろ、白衣だろ、手甲だろ、あとずだ袋と杖」
「お遍路さんの格好じゃねえか! それ四国の山にある霊場を八十八ヶ所巡るやつだろそれ」
「あと十ヶ所で終わりなんだよ」
「ほとんど終わってんじゃん」
「最近ヒマだったから」
「しーーっ! 仕事ないのバレるから」
「それにほら。お遍路ぜんぶ終わったら、神様がお仕事くれるかもしれないし」
「気持ちは嬉しいんだけどさ。俺たちまだ、神頼みの前にやれることがいっぱいあるんだよ。あとお仕事をくれるのは神様じゃなくてあのへんにいる偉い人だから」
「(手を合わせて頭を下げる)」
「ここはお参りしたらお仕事が貰えるシステムじゃないのよ」
「でもなあ、ちょっと困ってることあってさ」
「お遍路で?」
「そうそう。お遍路って実は、結構お金がかかる」
「え? そうなん? あんなんお寺を順番に回るだけじゃないの?」
「まず納経代」
「ほお」
「お寺に行きましたよーっている印を貰うのに300円。八十八ヶ所で26,400円」
「まあまあまあ、それはね。仕方ないんじゃない? お寺さんだって大変なんだし」
「それから宿泊代」
「まあねえ、一日で回るってわけにはいかないもんね」
「道後温泉で一泊5万円」
「高い高い高い。なんで温泉宿に泊まるんだよ。しかもまた高級なところに。ビジネスホテルにしとけよ」
「それから飯代。香川のうどんとか徳島のラーメンとかはまだいいんだけど、高知の皿鉢料理はちょっと痛かったな」
「もう『美味そう』という感想しか出てこない」
「それからレンタカー代。ハイエースで1日約3万円」
「なんで!? あれ10人乗りでしょ?」
「そりゃお前、みんなで行くならデカい車借りて割り勘した方がいいだろ」
「みんなって?」
「高校の友達」
「それはもう旅行だから! ただの夏休みの旅行!!」
「ちゃんと霊場は回ってるよ?」
「高校時代の友達と! みんなでハイエース乗って! 美味しいご当地グルメを楽しみながら、夜は温泉宿に泊まって! 四国の霊場を観光してるだけの! ただの旅行だから!」
「まあ、とにかく。あと十カ所回り切れなかったからさ。またみんなで行こうぜって話してて、さっき急にみんなから『予定が空いた』って連絡あってさ。じゃあ、これから行くかーって」
「ほかの九人が全員!? そんなことある!? ってか、『これから行くかー』じゃないのよ。お前は仕事あんだから、そこは断れよ」
「あ、ゴメン。ちょっと待ってて(舞台から袖へ)」
「ちょっ、ちょっ、どこ行くんだよ! おいっ! 戻ってこいって!!」
「(戻ってきて)ゴメン、ゴメン。友達からだった。都合悪くなったからお遍路はリスケだって。……仕方ない、漫才でもするか」
「やるわけねえだろ、バカ。いい加減にしろ」
【了】
🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤🎤
はい。本日は「山の日」ですね。
とりあえず山⇒お遍路まで決めて、あとは書きながらオチを探して走りました(笑)
残り20本でーす!
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