「ハット」(8月10日)
「はい、どうもー。シンタマカブリでーす」
「よろしくお願いしまーす。ありがとうございまーす。え? 待って、待って。(客席に寄って)お兄さんの靴、めっちゃ格好いいですねえ。良かったらそれ、僕に頂けません?」
「ちょっと、ちょっと。急に何言い出してんの? ごめんなさい、うちの相方がおかしなこと言い出して。あのさ、『良かったら』じゃないのよ。良いわけないんだから。お兄さんを裸足で帰らせる気か?」
「それもそうか。……あ、僕の靴を代わりに――」
「要るか、バカ! てか、なんでお客さんから靴を巻き上げようとしてんの?」
「いや、だってほら。もうすぐ僕の誕生日じゃん?」
「あ、そうだっけ。いや、誕生日でもお客さんから靴を巻き上げていい理由にはならんのよ」
「じゃあ、お前がくれよ」
「は?」
「お前が僕に誕生日プレゼントを買ってくれよ」
「はああ? なんだ急に。言い方も腹立つし。まあまあまあ、とはいえこんなんでも相方ですからね、誕生日プレゼントくらい買わないこともないですよ。で、なに? 靴が欲しいの?」
「いや、靴は別に」
「『別に』なの!? それ、格好いい靴のお兄さんにも失礼じゃない? だったら、何が欲しいんだよ」
「んー、ハットかな」
「ハット」
「そう。大きめのやつがいい」
「大きめのハット? そんなんでいいなら、まあ、いいよ」
「マジで!? 絶対だな? 男に二言はないな?」
「お、おう。なんか怖いんだけど。あ、ブランドものはやめてくれよ」
「ハハッ、ブランドて、お前(小ばかにして笑う)」
「なんかおかしいこと言った?」
「ハットにブランドて」
「あるだろ。ハットにだってブランドものはあるだろ」
「じゃあお前、ハットのブランドなんか知ってんのか?」
「いや、俺も詳しくはないけどさ。エルメスとか、アルマーニとか、有名なブランドならどこでもハットくらい出してんだろ」
「アッハハハハ! エルメスのハットて、アルマーニのハットて(腹を抱えて笑う)」
「俺、なんかおかしいこと言った!?」
「わかった、わかった。これはアレだ。ハット違いだ」
「ハット違い? なにそれ、どういうこと?」
「お前が言ってるのはイエローハットの方のハットな」
「お、おう」
「僕が言っているのはピザハットの方のハットだから。な?」
「ぜんっぜん、わからん。『な? わかるだろ?』みたいな態度されても、今のところ1ミリも伝わってないからな。え? 結局どうゆうこと?」
「本当にわからんの? じゃあ、もう一つヒント」
「ヒントて。さっさと正解だけ言ってくれよ」
「僕のはリンガーハットのハット。ほらっ、大ヒントきた」
「いやいやいやいや。余計にわからんくなった。さっきはまだ『車か、食べ物か』みたいな違いがあったのに、車のほうに食べ物が入ってきて、もうわけわからん。もう無理! さっさと答えをくれ!」
「だーかーらー。お前が言ってるのは帽子のハット。俺が言ってるのは小屋のハット。な?」
「知らん知らん知らん。何それ? 小屋をハットって呼ぶことをまず知らんのよ」
「だから、はい(手を出す)」
「なに?」
「ハットをくれ」
「はああああああああああ!? お前、相方に誕生日プレゼントで小屋ねだるヤツがどこにいんだよ」
「(自分を指さして)」
「『ここ、ここ』じゃねえんだよ。小屋ってお前、いくらすんだよ」
「無印良品で300万円くらい」
「おっと、案外お値ごろ。……じゃねえよ。それは相方に誕生日プレゼントで買わせる額じゃねえから!」
「あーあ。男に二言はないって言ったのに」
「俺は相方から詐欺に遭いそうになってんだよ」
「じゃあ、なに。買ってくれないってこと?」
「なんで不服そうなんだよ。当たり前だろ」
「じゃあ仕方ない。(客席に近寄って)ねえお兄さん、やっぱりその靴、僕に頂けないですかね?」
「やめろ、バカ! いい加減にしろ」
【了】
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8月10日は「ハットの日」ということで、テーマもタイトルもハットでした。
さあ、残り21本ですね。
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