第30話―幻影眩ますは鳳凰の陽炎
「……影淵剣、極致其の弐・改……“獄淵・朧隠れ”」
「…………ディー、レ?」
呼んでも、彼からの返事はない。
ラグナ殿が、こちらを今まで見たこともないような形相で睨む。
「ヴァイ殿……何をした?」
「……ッ」
物凄い殺気に、冷汗が止まらない。だが、私はまだ、何も言わない。
「……何をしたと、訊いている……!」
無詠唱で剣を召喚するラグナ殿。これ以上はマズい――そう思っていると。
「っ……ぅ、私は……、やられた、はずでは……」
「!?」
ディーレ殿が、目を覚ました。
「私のスキルですよ。先程の極致は、私のスキルで生み出した幻影です」
「……ヴァイ殿……貴殿という人は……」
安堵したといった表情で、刀を仕舞う彼女。
「申し訳ありません。ディーレ殿の“陽炎”から、インスピレーションを得たのです。ここに更に私の権能を加えると、
そう言って、起き上がって座ったディーレ殿を見やる。
「ええ。完全にやられてしまいました……。これくらい、予測できた気はするのですが……。完全に認識できてませんでしたね。………もしかして、それも……」
そこでやっと気がついたのか、合点がいったという表情をする。
「……あの時ですね。私の“陽炎”を斬った時、あの瞬間に私の空間認識能力を操作した。だから、私はあの幻影が見えなかった」
「御名答、です。物理は干渉できないのは解っていましたが、スキル同士では多少の干渉はされるみたいですね。少し、博打ではあったのですが」
私がそう説明すると、彼は完敗だとばかりに肩をすくめる。
「やはり、敵いませんか……。スキルで干渉されるのは盲点でした……」
「魔法やスキルをフルで使うとなると、それは頭脳戦にもなりますので。そういうのは、私の得意分野ですから。ですが、単純な物理戦になるとやはり私に勝ち目は無かったでしょう」
そう話すと、彼は数秒目を閉じたのち、少し微笑む。
「私にも、超えるべき目標ができましたね。次は、負けません」
「望むところです。私も、このままでいるわけではありませんよ?」
そういって私たちは、どちらから示し合わせるともなく握手をした。
その時、パン、パンと乾いた音が聞こえた。
「いやいや、なかなか面白い試合を見させてもらったよ。アレを見ていたら、私の血も滾るというものだ」
そう言いながら現れたのは、シャツに赤いベスト、そして漆黒のマントを羽織った吸血鬼。
「お久しぶりですね、ヴァン殿」
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