第29話―VS〝千龍〟の右腕

「始めッ!」


その声と同時に、私たちは地を蹴る。ディーレ殿の横薙ぎに合わせて、弾き、右上から袈裟懸けに斬り下ろす。合わせるように、彼は下から受け、鍔迫り合いへと移行する。

私はニヤリと笑い、“水崩スイホウ”で体勢を崩しつつ、至近距離で火属性最高等魔法をぶっ放す。


「〚劫炎獄熱波インフェルノブレイズ〛ッ!!」

「ッ!?朱雀刀極致其の参、“鳳凰ノ煌翼”ッ!」


ディーレ殿は極致を発動し、間一髪で受けきる。

それから体勢を立て直すために、彼は一度距離を取った。


「さすが〝魔女の末裔〟ですね。至近距離でのアレはさすがに死んだかと思いましたよ」

「あなたならどうにかできるだろうと思って、ですよ。もちろん、まだまだこれから、ですよね?」


それに対し、彼は軽い笑みを浮かべながら答える。


「無論です。では―『天炎ノ王ヘパイストス』、〚陽炎〛」

「……?揺れている?」


ディーレ殿の身体が、揺れている。それは物理的にではなく、まるで幻のように、揺蕩っている、と言った方が正しいか。


「さあ、それでは、2回戦です」


そう言って彼は私に斬りかかる。真っ向から来る斬り下ろしを、私は受けずに右斜め前へ足を踏み出し、そのまま左脇から横薙ぎに斬る。

だが―


「なにっ……!?」


私が振るった剣は、ディーレ殿を斬ることなく通過した。


「“陽炎”……なるほど、そういうことですか」


恐らく、自分自身が“陽炎”と化すことで、物理攻撃は全て無力化するのだろう。ということは、ここで効くのは―


「―ッ!!」


私は[多重無詠唱アクセラレーション]にて、系統魔法【火】、【水】の最高等魔法を行使する。それを発動する寸前に、二つの魔法を融合させる。


「〚流炎轟爆ヴェイパー・エクスプロージョン〛ッ!!」


私が放ったその融合魔法は、狙い違わず彼の元で大規模、という言葉では形容し難いほどの水蒸気爆発を起こす。それぞれの最高等魔法の融合魔法だ、威力は申し分ない。


「―朱雀刀、極致其の弐、“焔凰えんおう”…ッ!」


彼は先ほどの爆発による煙を目眩ましに使い、ここで決めるべく極致で突進してくる。

そして―


「なっ……!?」


―止まれず、煙で隠れていた私の極致をもろに食らった。


「かッ……は………」


そして、倒れるディーレ殿。


「……影淵剣、極致其の弐・改……“獄淵ごくえん・朧隠れ”」

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