第27話―影は龍をも蝕むのか

その時、後ろから私を呼ぶ声がした。


「おお!ヴァイ殿ではないか!それに今回はレイティア殿も一緒なのだな!」

「ラグナ殿、それにディーレ殿も」

「………ほう?お前、やるな。佇まいに隙がない」

「お褒めに預かり光栄です、〝紫の魔女〟殿」

「………む?2人とも、何か違うな。もしや、ついに奥義を習得したか?」


その言葉に、私たちは目を合わせた。


「さすが近衛騎士団長の名は伊達じゃないな。お前の言うとおり、遂にたどり着いたぞ。剣の最高峰に」

「魔法使いなのにそこまで行くとは、いやはや恐るべきセンスだな。私も極めたと思っていたが、貴殿らからは学べることがまだまだありそうだ」


そう言ってラグナ殿はニカッと笑う。


「そうだラグナ殿、一つ見て頂きたいものがございまして」

「ほう?見てほしいもの、とは?」

「姉上」

「ふむ、あれか。いいだろう」


そう言って私たちは、いつも通り二振りの対となる魔剣をそれぞれ召喚する。

そして、いつもとは違う魔法を行使する。


「―〚召喚魔法サモン影淵剣イズ〛」

「―〚召喚魔法サモン陽天剣ルーク〛!」


すると、私たちの握っていた魔剣が消え、姉上と私の前に、跪いたアビスレイジイズソルクツァーレルークが現れる。


「イズ、並びにルーク、主の召喚に応じ馳せ参じた」

「ええ、ありがとうございます」


その様子を見て、ラグナ殿とディーレ殿は目を見開き絶句している。


「………一体、何が起こったのです……!?」

「魔剣が……魔人に…!?そんなこと、故郷でも聞いたことがないぞ……」


そして、イズとルークは2人を一瞥するなり、少し興味を示したような顔をする。……イズはほぼ変わっていないに等しいが。


「へぇ……。この2人、やるね」

「ああ。我が主はラグナ殿と言っていたか、彼女に至っては“裏”も会得しているようだな。中々手強い」


それに対し、当の2人は。


「―ディーレ」

「ええ。解っております。私たちでは、あのお二人には勝てません。何十回、何万回挑もうと、万に一つも勝てるビジョンが見えませんね」

「……だろうな。だが……まだ強くなれると言うことだぞ。ははっ、心が躍って仕方がない!」


2人には勝てないという認識を持ちながらも、戦いたくて仕方がないようだった。


「イズ殿!貴殿に手合わせを願おう!使うのは真剣で、降参で決着だ!」

「ほう?いいだろう。面白くなりそうだ」


果たして本当にそう思っているのかわからない表情でイズはそう言うと、目の前の何もない虚空を握る。すると、彼自身の本体、影淵剣アビスレイジが出現する。


「目覚めよ、私と共に在りし龍よ!狂い咲け、今こそ覚醒の刻!絶龍刀ぜつりゅうとう、ミコトサキッ!」

「古龍から造られし刀か。中々どうして、凄まじき剣士だ」

「お褒めに預かり光栄ッ!さあ、始めようではないか!!」


そう言うと彼女は獰猛な笑みを浮かべながら構える。

対するイズはただ右手にぶらりと持っているだけで、ほぼ丸腰の状態だ。


「……では、立会人は私が行います。―始めッ!!」


その仕合いは、一瞬にして終わった。


「―〚雷醒らいせい〛ッッ!!」


その言葉と同時に、彼女は蒼雷と化し、イズめがけて一直線に飛んでいく。


「端っから容赦はしない!絶龍刀、極致其の壱―“雷龍閃斬らいりゅうせんざん”ッッ!!」


龍を彷彿とさせる剣閃が、イズを穿たんと襲いかかる。

だが―イズはまだ動かない。

自分の首を狙ってくる者に対し、一言呟く。


「―極致其の肆、“影遠えいえん”​​」

「―ッ!?」


その瞬間、ラグナ殿の動きが限りなく遅くなった。彼女の表情は驚愕に染まりながら、このままではまずいと言うことは解っているみたいだ。

そして、イズはゆるりと、彼女の首元に剣を突きつける。

それを見た私は、声を上げる。


「―それまで!」

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