第26話―ルオ・ライオット

「……さて、姉上、私はこれから訓練場に行くのですが、姉上はどうしますか?」

「ほう?それは興味深いな。一緒に行くとしよう」

「かしこまりました。では、行きましょうか」


そう言って、家に着いてすぐに、王城の訓練場へと転移する。

そこでは、ラグナ殿はディーレ殿と仕合っており、〚幻想創造ファンタズムクリエイト〛で創った甲冑人形に魔法を放つルオの姿が見えた。

ルオの得意魔法は……【火】?いや、その割には色が違う。もしかすると、固有系統外魔法……?


「ふむ。あいつ、魔力練成は上手いのに放出の段階でグダってるな。それに、あれは……火魔法か……?」

「やはり、姉上もそう思いましたか」

疑問に思った私たちは、彼の元に近づき、話しかける。


「精が出ますね、ルオ」

「……!!お、お疲れ様です、団長!……と、そのお方は……?」

「私の姉上です。つまり、もう1人の〝紫の末裔〟ですね」

「レイティアだ。遠くから見ていたが、中々の魔力練度だな。その年でここまでとは素直に感心に値するよ」


姉上がそう言うと、ルオの表情がパァッと明るくなった。


「〝魔女の末裔〟の方に褒めていただけるなんて……!光栄です!!」

「ふっ、面白いなお前」


その言葉に、私は少し驚いた。


「……珍しいですね。姉上が人に『面白い』なんて……」


私がそう言うと、姉上が私を睨む。


「お前は私を何だと思ってる?」

「気まぐれで人に懐かない自由人ですが?」

「……否定はせん」

「せん、ではなくできない、でしょう。何年一緒にいると思ってるんですか」

「ふっ、それもそうだ」


私と姉上が言い合う光景にルオは追いつけていないのか、ぼーっとしている。

私はひとつ咳払いをし、彼を現実に引き戻す。


「それはそうと、貴方のその魔法、もしかして系統外魔法ですか?」

「あ、はい!系統外魔法【聖】です!」


ルオが言ったその属性に、私と姉上は顔を見合わせた。


「【聖】……?初めて聞く属性だな。固有属性か?」

「そうなんですか?まあ確かに、団員で誰も使ってるのを見たことはないですが……」

「ふむ……。少し、興味があります。貴方の身体、少し貸してもらってもいいですか?」

「僕の身体、ですか……?まあ、解りました」


私はそう了承を得ると、私の固有オリジナル魔法を行使する。


「では、身体の力を抜いて楽にしてください。―〚傀儡憑依ポゼッション身体ボディ〛」


私はそう言い、目を開けると、ヴァイの身体が目の前にあった。

そして、声には出てないが、身体ルオの中から声が聞こえる。


―な、何が起こってるんですかこれ!?

―落ち着いてください。一時的に身体を借りているだけですから。少し魔法を使わせていただいたら、すぐに戻しますよ。

―そんなことが………。……いえ。そういえば団長は〝紫の末裔〟でしたね。解りました!では、隣で見ていますね!


彼がそう言うと、隣に座ったような感覚を感じた。この魔法にすぐに理解を示すあたり、中々肝の座った子ですね―と思った。

ルオは甲冑人形に向き直ると、魔力を練り、魔法を行使する。


「―聖ナル爆炎ホーリーブレイズ


ルオの中の私がそう詠唱すると、目の前の甲冑人形に金色の炎が衝突し、その瞬間―爆発した。


「これは……絶大な威力ですね……」


私がそう言うと、また声が聞こえてくる。


―いやいやいや!普段僕あんな威力出ませんよ!?一体どうやったんですか!?

―魔力練度の差もあるのですが、恐らくルオの場合、魔法を発動する瞬間、魔力放出の段階で、練った魔力が緩んでいるんですよ。

―なるほど……?上手くいかないと思ってたけど、そういうことだったんだ……。

―ですが、これは元々扱いがかなり難しい魔法かと。使ってみて解りましたが、魔力消費量に、その操作難度、どれをとっても最高等系統魔法に準ずるレベルです。今の段階であそこまでできているなら上出来だと思いますよ。


私がそう言うと、彼は嬉しそうな表情をした―気がした。


―一度、身体の主導権をお返ししますね。魔力はこちらで操作するので、発動はそちらで。恐らく、それが1番コツが掴みやすいでしょう。

―本当ですか!?よろしくお願いします!


やり取りの後、私は彼に主導権を渡す。

そして、彼が魔法を発動する準備をする。

その魔力を練る段階では、私は特に何もすることはない。元々魔力練度は中々のものだ。私がそんなに手を出さなくても、十分に練れている。

だが、問題は発動時だ。放出するその瞬間、彼の練った魔力がほつれてしまう。私はそこだけをアシストするべく、集中する。

―そして、その時が来た。


「行きます!聖ナル爆炎ホーリーブレイズッ!」

「……ほう?」


と、その不思議そうな声は、姉上のものだ。

私がアシストしたその魔法は、照準通り甲冑人形をめがけ一直線に伸び、衝突、爆発した。

それを見届けた後、私はヴァイの身体に戻る。


「……ふう。久々に使いましたが、この魔法、中々使い勝手が悪いですね。魔力効率がとんでもなく悪い。改良の余地あり、ですね」


そして、当のルオはというと。


「……なるほど!今の感じか!ありがとうございました団長、感覚を忘れないうちに練習してきます!」

「あっ、ちょっ……魔力切れには気をつけてくださいよー?」


彼はそう言って、私が止める間もなく練習をしに戻っていった。


「ヴァイよ、お前ほとんどアシストしていなかっただろう?」


姉上がくつくつと喉の奥を鳴らして笑いながら放ったその言葉に、私も思わず笑みがこぼれた。


「さすがですね。本当に僅かに手を貸しただけで、発動の瞬間も自分でできていましたよ」

「………お前も大概だと思ってはいたが、ルオと言ったか。中々どうして、尋常じゃない成長速度だな」

「ええ。化けますよ、あの子は」

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