第17話―神速の抜刀、『居合』

「勝者、ラグナ様!」


その声が響いた途端、四方八方から大歓声が上がる。中には、「すごかったぞー!」「最ッ高に興奮した!ありがとう!」「ラグナ様にあんなに喰らいつくなんて凄すぎる!」と、絶賛の嵐だった。


「―天晴れだ!凄まじかったぞ、ヴァイ殿!」

「………ええ。ですが、負けは負けです」

「だが、至ったではないか。剣の高みに」

「そう、ですね。それは大変嬉しいのですが……」

「ん?どうしたのだ?」

「最後の、あれは何が起きたのですか?気づいたら首元に切先があったので、まだ理解できておらず……」


そう。あの一瞬の中で、何が起こったのか、私は未だに理解できてなかった。

それに対し、彼女はこう答えた。


「貴殿が放ったあの影の檻、あの中で貴殿が斬るのを待っていた。剣身が見えた瞬間に、極致でタイミングを合わせた、ということだ」

「なっ………。あの一瞬にも満たない間に、そんなことが……」

「できるのだ。私の生まれ育った地域には、『居合』という技があってな。一度納刀した状態から、相手の攻撃を迎え撃つように抜刀する、という技だ」

「『イアイ』……」


こちら側にはない技だ。どんなモノなのか一切想像がつかない。


「私の地域の言葉に、『百聞は一見にしかず』、という言葉がある。100回聞くよりも、1度目の当たりにした方がわかりやすい、という意味だ。一つ、お見せしよう」


そういうと、彼女は訓練用の甲冑人形の前に立つ。


「……でしたら、このようなモノがあるとやりやすいでしょう」


私はそう言い、ラグナ殿の前に幻想体ファントムを作り出す。


「ほう?これは……貴殿のスキルか?」

「ええ。詳しくは説明いたしませんが、私のスキルの権能の一つです。独立した思考を持っていますので、極致も放てます」

「なるほど。実に面白い権能だ」


そう言う彼女はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「では―頼む」


彼女は腰の鞘に刀を納め、左足を引き、右に体重をかけ、前傾姿勢の状態で構える。左手は鞘の上部で刀の鍔に親指をかけ、右手は柄にかかってはいないが、いつでも掴める状態を作っている。


「おお………」


私は、その姿に既に見惚れていた。

そして、幻想体の私が、極致を放つ。


『影淵剣、極致其の弐・改―“獄淵ごくえん飛燕一刀ひえんいっとう”!』


漆黒の炎を纏った剣を、その場で一薙ぎし、斬撃を飛ばす。

それに少し驚いた顔をする彼女。だがその表情は一瞬で笑みに変わり、次の瞬間―


「絶龍刀、極致其の弐―“双龍一閃そうりゅういっせん”!!」


一瞬にも満たない時間で、一筋の漆黒の斬撃が3つに分かれ、ラグナ殿は既にキン、と音をたて、腰の鞘に刀を納めていた。


「………速い」


私は思わずそう呟いた。

速い。とにかく速いのだ。抜刀する瞬間もほぼ見えず、気づいたら納刀していた。


「……驚いた。貴殿は本当に至ったばかりなのか?」

「ええ。今まで姉上のを見てきましたが、感覚が全く掴めなかったので。ですが、感覚を1度掴んでしまえば、こちらのものですから」

「……いやはや凄まじいな、貴殿の成長速度は」

「いえ。まだまだです。恐らく………先程の手合わせ、本気ではなかったのではないですか?ラグナ殿」


私は少し目を細めて問いかけた。私はそれに続ける。


「もし最初から勝つつもりでいたなら、先程の『居合』を使って私の攻撃にカウンターを合わせれば一撃だったはずです。それに……今なら解ります。ラグナ殿、貴殿の極致……まだ先がありますね?それも………世界を、滅ぼしかねないほどの」

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